従業員調査の完全ガイド|目的別の調査手法と適法性【保存版】
「従業員の勤務実態・不正行為・情報漏洩を調べたいが、どこまでやってよいかわからない」
「いくつかある調査の方法から、自社のケースに合うものをどう選べばよいか」
「社内でできることと、外部に任せることの線引きがわからない」
従業員の調査は、不正の確認や証拠の収集、処分を検討するための材料づくりとして行われます。一方で、方法によってはプライバシーの侵害やハラスメントにあたると判断され、会社が責任を問われることもあります。目的に合った方法を、適法な範囲で、専門家と相談しながら進めることが大切です。
本記事では、従業員の調査について「目的別の整理→社内でできること→外部の調査→適法性→結果の使い方→選び方→依頼の実務」の順に整理します。各セクションに詳しい解説記事へのリンクを設けています。
個別事案で、どの調査方法が適切か、得られた資料が処分や手続きで使えるかは、状況や証拠によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
1. 従業員調査の目的別マップ

従業員の調査は、何を確認したいかによって、適した方法・相談先・必要な記録が変わります。まず、自社のケースがどの目的にあたるかを整理してください。
| 調査の目的 | 確認したいこと | 主な方法 | 想定される使い道 |
|---|---|---|---|
| 勤怠・勤務実態の確認 | 申告と実際の行動の食い違い | 記録の照合・行動調査 | 指導・懲戒処分の検討 |
| 不正行為の確認 | 横領・経費の不正・架空取引の事実 | 帳票の照合・デジタル記録の解析・行動調査 | 懲戒処分・損害賠償・刑事告訴の検討 |
| 情報漏洩の経路の確認 | 持ち出しの事実・使われている先 | デジタル記録の解析・行動調査 | 差止めの申立て・損害賠償・刑事告訴の検討 |
| 競業行為の確認 | 退職者と競合他社の関係・顧客の引き抜き | 行動調査・公開情報の確認 | 差止め・損害賠償・誓約書違反の指摘 |
| ハラスメントの事実確認 | 行為の有無・程度・継続しているか | 聞き取り・メールや記録の確認 | 懲戒処分・被害を受けた人への配慮 |
| 加盟店・多店舗の実態確認 | 売上の隠蔽・接客の品質・規程の遵守 | 覆面調査 | 契約の見直し・指導・損害の回収 |
調べたいという動機から入ると、方法を誤ることがあります。何を確認し、その資料を何に使うかを決めてから、方法と範囲、記録の形式を決めてください。
2. 社内でできる調査
社内の担当者が行う調査は、外部への支払いが発生しない点が強みです。一方で、独立性、記録の受け止められ方、専門的な解析の3つの点で限界があります。どこまでを社内で行い、どこから外部に任せるかを決めておきます。
2-1. 書類・帳票の照合
社内でできる基本は、複数の記録を突き合わせて、食い違いを見つけることです。
| 照合する記録 | 確認できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 経費の申請書・領収書・帳簿 | 架空の経費・水増し・二重の申請 | 原本の保全が先。操作する前に写しを取る |
| 勤怠の記録・入退室の記録・PCのログ | 打刻の食い違い・残業の実態・離席の状況 | ログの保存期間を確認し、早めに取得する |
| 売上の記録・入金の記録・レジのデータ | 売上の隠蔽・現金の着服 | 加盟店の場合は、本部がデータを確認できる契約かを確認する |
| 発注書・請求書・納品の確認書類 | 架空の発注・キックバック・実体のない取引先 | 取引先が実在するか、納品の事実があるかの確認が必要 |
詳細:経費精算の不正を防ぐ仕組みとは?発覚事例から学ぶチェック体制の作り方
詳細:勤怠改ざん・タイムカード不正を発見する方法と企業の対処法
詳細:架空取引とは?手口・発見方法・企業が取るべき法的対応を解説
2-2. ヒアリング(関係者への事情聴取)
聞き取りは、誰に、どの順番で、何を聞くかを決めてから行います。対象者への接触は、記録を保全したあと、周囲への聞き取りのあとが基本です。
- 順番:事情を知る立場の人、周囲の同僚、最後に対象者の順で行う
- 記録:2名で対応し、記録を残す。録音する場合は、その旨を伝えておく
- 避けたいこと:長時間、密室、威圧的な雰囲気での聞き取りは、ハラスメントと受け取られるおそれがある
詳細:パワハラ加害者への対処法|事実認定の手順と処分の進め方
2-3. 社内でできる調査の限界
| 限界 | 具体的な問題 |
|---|---|
| 独立性を保ちにくい | 調査する側と対象者に利害関係があると、公正さを疑われやすい |
| 記録が変わってしまうおそれ | 社内のIT担当者が機器を操作すると、データが上書きされることがある |
| 対象が上位者だと機能しにくい | 役員や部門長が対象の場合、社内の担当者だけでは進めにくい |
| 報告書の受け止められ方 | 社内で作成した資料は、公正さの点で説明を求められることがある |
詳細:社内調査の進め方|不正発覚から報告書作成までの完全ガイド
社内でできる範囲に限界を感じている段階でも、状況の整理からご相談ください。
3. 外部調査の手法一覧
外部に依頼する調査は、社内では確認できない事実を、適法な方法で、資料として残る形で記録することに意味があります。代表的な4つの方法を、事案に応じて組み合わせます。
3-1. 行動調査(素行調査・尾行調査)
公道や公共の場での行動・立ち寄り先・接触した相手を、写真や記録として残す方法です。社内の記録には残らない、社外での事実を確認する手段になります。
| 使う場面 | 確認できること | 資料の使い道 |
|---|---|---|
| 直行直帰・勤務実態の確認 | 申告された場所にいるか、勤務時間中の行動 | 指導や処分を検討する際の資料 |
| 競業行為・退職者の接触 | 競合他社への出入り、元の取引先への訪問 | 差止めの申立てや損害賠償を検討する際の資料 |
| 横領・経費の不正の補足 | 関係先との接触の状況 | ほかの記録と合わせて事実を説明する資料 |
行動の記録だけでは、その行動の意味までは説明できません。社内に残る記録と組み合わせて初めて意味を持ちます。
詳細:法人向け行動調査とは?対象者別の調査内容・報告書の使い方を具体的に解説
詳細:素行調査とは?従業員の行動調査を依頼する前に知るべき費用・範囲・注意点
3-2. デジタルフォレンジック調査
PC・スマートフォン・サーバーのデータを、手順を踏んで保全し、解析する方法です。削除されたデータの復元や操作の記録の確認ができます。社内で機器を操作すると記録が変わってしまうため、専門のフォレンジック会社に依頼することを検討してください。
- USB接続やファイルのコピーの記録、外部への送信の記録、削除されたファイルの復元
- メールやチャットの送受信の記録、クラウドへのアップロードの記録
- 会計システムの操作や変更の記録
詳細:デジタルフォレンジックとは?企業の不正調査で使われる技術と活用場面
3-3. 覆面調査(ミステリーショッパー)
一般の客として店舗や施設を訪れ、接客や規程の遵守、売上の処理の状況などを記録する方法です。加盟店や多店舗の確認で使われます。
詳細:【事例】フランチャイズ加盟店の売上隠蔽|本部の対応記録
3-4. 信用調査・取引先調査
取引先が実在するか、どのような経営の実態か、代表者と自社の従業員に関係がないかなどを確認する方法です。架空の発注や実体のない取引先が関わる不正の確認に使われます。
詳細:架空取引とは?手口・発見方法・企業が取るべき法的対応を解説
4. 適法性の全体整理
調査は、適法な方法で行うことが前提です。方法によっては、会社が責任を問われることがあります。また、取得の経緯に問題がある資料は、手続きの中でその扱いが争われることがあります。

4-1. 適法性が問題になりやすい行為
| 調査の行為 | 考え方 | 前提・理由 |
|---|---|---|
| 公道や公共の場での行動の確認・撮影 | 行える | 探偵業法にもとづく調査の範囲。対象者の私生活に過度に立ち入らないことが前提 |
| 会社が貸与したPCのログやメールの確認 | 条件つきで行える | 就業規則などで定め、周知していること。業務上の目的に限ること |
| 社用車へのGPSの設置 | 条件つきで行える | 規程での定めと周知、業務上の目的、勤務時間内の利用など、条件を満たしているかが問われる |
| 私有地への立ち入り・室内の撮影 | 行えない | 住居侵入やプライバシーの侵害にあたるおそれがある |
| 第三者どうしの会話の無断録音 | 行えない | 会話に加わっていない人が無断で録音することは、プライバシーの侵害にあたるおそれがある |
| 従業員の私物スマートフォンへの無断アクセス | 行えない | 不正アクセス禁止法に触れるおそれがある |
| 従業員の私有車への無断のGPS設置 | 行えない | ストーカー規制法に触れるおそれがあるとされている |
判断は事案によって異なります。迷う場合は、調査を始める前に弁護士に確認してください。
なお、依頼した会社が違法な方法をとった場合でも、依頼者が違法な方法と知りながら依頼や指示をしていたときは、依頼者の責任が問われることがあります。依頼先に任せきりにせず、方法を確認してください。
4-2. 従業員のプライバシーと企業の調査権限のバランス
会社には業務上の管理の必要がありますが、従業員にもプライバシーがあります。その調整のために必要とされているのが、規程での定めと周知です。
- 業務用の機器やシステムの確認:就業規則などに、業務上の必要がある場合に確認することがある旨を定めておく
- 社用車のGPS:車両管理の規程に定め、運転する人に伝えておく
- 目的:業務の管理に限り、私生活の把握を目的としない
詳細:探偵業法とは?合法的な調査の範囲と依頼者の責任をわかりやすく解説
この方法で問題がないかを確認したい段階でも、ご相談ください。
5. 調査結果の活用
調査で得た資料を何に使うかによって、必要な記録の種類や報告書の形式が変わります。調べてから使い道を考えるのではなく、先に使い道を決めておいてください。
5-1. 懲戒処分への活用
報告書を処分の資料として使う場合は、いつ・どこで・何があったかが記録されていること、処分の重さが釣り合っていることが問われます。処分の前に、弁護士に報告書の内容を確認してもらってください。懲戒処分には、就業規則の定めと周知が前提とされています。
詳細:問題社員の正しい辞めさせ方|証拠に基づく段階的対応フロー
詳細:懲戒処分の種類と選択基準|企業が不正社員に適正な処分を下すための実務ガイド
5-2. 差止仮処分・損害賠償への活用
競業行為や情報の持ち出しについて差止めを申し立てる場合は、行為が続いていることなどの説明が必要になります。行動の記録は、その資料の一つになります。ただし、申し立てれば認められるものではなく、合意の有効性や情報の管理状況などが前提として問われます。
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5-3. 刑事告訴への活用
刑事告訴を検討する場合は、行為の内容や被害の金額を説明できる資料が必要になります。デジタルの記録と行動の記録を組み合わせることが多くあります。ただし、告訴が受理されるか、起訴されるかは保証されず、損害を回収するための手続きでもありません。
詳細:業務上横領とは?経営者が知るべき定義・時効・対処フロー
5-4. 示談・回収への活用
調査費用を含めた損害の内訳を示して話し合うことがあります。ただし、告訴しないことを条件に支払いを強く迫ると、恐喝などに問われるおそれがあるとされています。進め方は弁護士に相談してください。
6. 手法別の選び方
自社のケースにどの方法が向いているかを、費用・着手までの早さ・残る記録・使い道の4つで整理します。費用はいずれも目安で、依頼先や事案によって変わります。

| 方法 | 費用の目安 | 着手までの早さ | 残る記録 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 社内での照合 | 社内の人件費のみ | すぐに始められる | 書類・帳簿・ログ | 初期の確認、比較的軽微な事案 |
| 行動調査 | 1日5万〜15万円程度から | 数日程度 | 写真・行動の記録 | 勤務実態、競業行為、退職者の接触の確認 |
| デジタルフォレンジック | PC1台20万〜50万円程度から | 1〜2週間程度 | ログ・削除データ・通信の記録 | 情報漏洩の経路の確認、会計データの解析 |
| 覆面調査 | 1回3万〜10万円程度から | 数日程度 | 観察の記録・映像 | 加盟店や多店舗の確認 |
| 信用調査・取引先の調査 | 5万〜30万円程度 | 1〜2週間程度 | 登記などの資料・実在の確認 | 取引先の実態の確認 |
組み合わせ方の例は次のとおりです。
- 勤怠の不正:社内の記録の照合→必要に応じて行動調査→処分の前に弁護士に確認
- 横領・経費の不正:弁護士に相談→デジタルの記録の解析→必要に応じて行動調査
- 情報漏洩:デジタルの記録の解析→接触先の確認→弁護士と手続きを検討
- 競業行為:社内の記録と公開情報の確認→弁護士に相談→必要に応じて行動調査
詳細:不正調査の費用相場まとめ|ケース別料金シミュレーション
7. 依頼の実務
調査会社に依頼する際に、確認しておきたいことを整理します。
7-1. 依頼先の選び方
初回の相談で、探偵業の届出、法人案件の実績、報告書の形式、費用の見積もりと上限、秘密保持の取り扱いなどを確認します。確認する項目と、回答で見るポイントは、次の記事で一覧にしています。
詳細:法人が探偵・調査会社を選ぶときの完全ガイド|比較ポイントと失敗しない依頼の仕方
詳細:探偵事務所と大手調査会社の違い|法人案件はどちらに頼むべきか
7-2. 初回相談で伝えるべき情報
次の内容を整理して伝えると、見積もりと進め方の説明が具体的になります。
- 調査の目的(何を確認したいか、その資料を何に使うか)
- 対象者の状況(立場、勤務の形、行動の範囲)
- 急ぐ事情があるか(記録が消えるおそれ、処分や手続きの期限)
- 予算の上限(大まかな範囲でよい)
- すでに社内で確認したこと(ログ、帳票、聞き取りの概要)
7-3. 弁護士との連携を前提に動く
調査会社への依頼は、何を確認する必要があるかを弁護士と整理してから行うと、集めた資料がその後の手続きにつながりやすくなります。
詳細:弁護士と調査会社の連携|法的手続きを見据えた調査の進め方
どこに相談すればよいかわからない段階でも、状況をお聞きしたうえで、進め方の整理をお手伝いします。
まとめ
従業員の調査は、目的をはっきりさせ、適法な範囲で、使い道に合った形で記録を残すことが基本です。社内でできる範囲を把握したうえで、調査会社・弁護士・フォレンジック会社を必要なタイミングで組み合わせてください。
- 目的→使い道→必要な記録→方法、の順で決める
- 社内では書類の照合と聞き取りにとどめ、機器の操作や対象者への接触は慎重に進める
- 外部の方法は、行動調査・デジタルフォレンジック・覆面調査・信用調査を事案に応じて組み合わせる
- 適法性:公道での確認や、規程で定め周知された業務用機器の確認が前提。私有地への立ち入り、無断の録音やアクセス、私有車へのGPSは行えない
- 調査の前に、何をどの形で記録する必要があるかを弁護士と整理しておく
各セクションの詳しい記事とあわせて、自社に合った進め方の検討に役立ててください。
