弁護士と調査会社の連携|法的手続きを見据えた調査の進め方
「調査会社に証拠を取ってもらったが、弁護士に見せたら『この報告書では訴訟に使えない』と言われた」
「弁護士に相談したら『先に証拠を集めてから来てください』と言われた。どちらに先に相談すればよいか」
「弁護士と調査会社を別々に動かしているが、情報の共有がうまくいっていない」
企業の不正調査では、弁護士と調査会社はそれぞれ異なる役割を持ちます。両者が連携せずに別々に動くと、集めた記録が手続きで使いにくい、調査の方向が法的な方針とずれる、といったことが起きます。
そのため、弁護士と調査会社が早い段階から連携し、手続きを見据えて調査を設計することが有効です。
本記事では、両者の役割分担・連携の進め方・証拠収集の設計・手続きを見据えた報告書・連携体制の確認方法まで整理します。
個別事案で取るべき手続きや、報告書がどう評価されるかは、事案の内容と証拠全体によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
弁護士と調査会社の役割分担

弁護士と調査会社は、企業の不正対応において、法的な判断と方針の設計、事実の確認と記録という、補い合う役割を担います。
どちらか一方だけでは、対応が不完全になりがちです。
| 機能 | 弁護士の役割 | 調査会社の役割 |
|---|---|---|
| 法的な評価 | 行為が法的にどう評価されるか、どの法令が関係するかの判断 | 確認した事実の記録。法的な評価は行わない |
| 証拠の収集 | 集めるべき記録の種類・優先順位・方法が適法かの設計 | 公道・公共の場での行動の記録、報告書の作成 |
| 手続きの選択 | 懲戒処分・仮処分・損害賠償・刑事手続きのどれを、どの順序で進めるかの設計 | 弁護士が示した方針に沿った調査の実施 |
| 相手方への対応 | 内容証明・交渉・訴訟の代理・告訴 | 行為が続いているかの確認、追加の記録 |
| 報告書の活用 | 報告書を資料として手続きに組み込む | 方針に沿った形式での報告書の作成 |
基本になるのは、弁護士が方針を設計し、調査会社がその方針に沿って事実を確認する、という流れです。
調査会社が単独で記録を集めてから弁護士に渡すと、手続きに必要な記録の種類・形式・優先順位がずれることがあります。
連携する場合の進め方
弁護士と調査会社が連携して進める場合、次の流れが実務上機能しやすくなります。
「弁護士と調査会社のどちらに先に相談するか」という問いへの答えも、この流れで整理できます。
STEP 1:弁護士への初期相談
不正の疑いが生じた段階で、まず弁護士に相談することを推奨します。
弁護士が初期の評価を行い、どのような記録が必要か、どの手続きが適しているか、調査会社に何を依頼すべきかを整理したうえで、依頼の内容を決めます。
- 目的とする手続き(懲戒・訴訟・告訴)に必要な記録の種類と水準を、弁護士が特定する
- 依頼する調査会社を決め、弁護士と連携できるかを確認する
- 調査の対象・期間・目的・報告書の形式を、調査会社に伝える
STEP 2:調査会社による事実の確認
方針を受けた調査会社が、手続きを見据えた形式で事実を記録します。
- 調査の方法、記録の形式、日時の管理などを、弁護士の求める要件に合わせる
- 途中の段階で弁護士に共有し、記録が足りているか、追加の調査が必要かを確認する
- 調査の完了後、弁護士が評価しやすい形式で報告書を提出する
STEP 3:弁護士による評価と手続きへの移行
報告書を受けた弁護士が、手続きに進むかどうか、時期と手順を判断します。
- 報告書を手続きの資料としてどう使えるかを、弁護士が評価する
- 記録が足りない場合は、追加の調査を設計する
- 記録が揃った段階で、懲戒処分・仮処分・損害賠償・刑事手続きのいずれか、または並行して進める
「弁護士が先か、調査会社が先か」については、原則として弁護士に先に相談することを推奨します。必要な記録の種類と形式を弁護士が整理したうえで調査を依頼すれば、後から手続きに使いにくかったというずれを防げます。
一方で、まだ弁護士に相談するほど事実が固まっていない、社内でどこまで確認できるか分からない、という段階もあります。その場合は、状況の整理から調査会社に相談し、必要に応じて弁護士につなぐ進め方もあります。
証拠収集の設計

連携の利点は、収集の設計段階から手続きを見据えられることです。目的とする手続きによって、必要な記録の種類・優先順位・方法が変わります。
| 目的とする手続き | 必要になる記録 | 調査会社への依頼内容 |
|---|---|---|
| 懲戒処分 | 問題となる行為の事実・日時・場所・継続性 | 行為の客観的な記録と、社内の手続きで使いやすい形式の報告書 |
| 差止めの仮処分 | 行為が現在も続いていることの疎明と、緊急性 | 訪問や接触の継続的な記録。時系列で現在も続いていることを示す報告書 |
| 損害賠償請求 | 損害の発生・金額・行為との因果関係 | 接触した先・頻度など、損害との結びつきを示す手がかりになる記録 |
| 刑事手続きの検討 | 行為の特定・意図をうかがわせる事情・被害額の根拠 | 行為の継続性や隠す動きの記録。社内の記録との組み合わせ |
記録の形式も設計の対象です。同じ事実でも、記録の形式、日時の管理、記述の客観性によって、手続きの中での受け止められ方が変わります。どの手続きで、どの形式で出すかを先に決めてから依頼してください。
手続きを見据えた報告書
手続きを見据えた報告書とは、訴訟や労働審判などに資料として出した際に、内容を説明しやすい形で作成された報告書です。
ただし、報告書がどう評価されるかは、事案と証拠全体によって決まります。以下は、評価を受ける前提として整えておきたい点です。
報告書で整えておきたい点
- 調査方法の明示:公道・公共の場での観察に限られていること、盗聴・私有地への立入り・無断のGPS取付けが行われていないことが報告書で分かる
- 日時の正確さ:写真や動画の日時が管理され、撮影の日時が正確である
- 記述の客観性:確認できた事実と、推測や伝聞が区別され、調査員の主観的な評価が混ざっていない
- 記録のつながり:誰が、いつ、どこで、何をしたかが、報告書全体を通じて追える
- 作成者の明示:作成した事業者と、探偵業の届出番号が記載されている
弁護士が求めることの多い記述の形
弁護士が報告書を手続きに使う際、次のような記述を求めることがあります。
依頼の時点でこれらを伝えておくと、報告書の形を事前に揃えられます。
- 「〇年〇月〇日〇時〇分、〇〇市〇〇の〇〇ビル前の公道から、対象者(服装:〇〇)が同ビル内の〇〇株式会社の入口に入る様子を確認した」という、具体的な記述
- 「競合他社の担当者と思われる人物と接触した」といった推測ではなく、外から確認できた事実(入った建物、同行した人物の外見、滞在した時間)に限った記述
- 写真と動画には、日時・場所・撮影方向を付記し、証拠番号で管理する
弁護士との連携を前提に調査を進めたい、何から整理すればよいか分からないという段階でも、ご相談ください。
連携体制の確認方法
弁護士と連携できると説明している調査会社は多くありますが、実際の関わり方は会社によって異なります。
自社の事案に合う連携ができるかを、次の点で確認してください。
確認したい5つのポイント

| 確認する点 | 聞き方の例 | 回答で見るポイント |
|---|---|---|
| 弁護士との関わり方 | 弁護士と連携して進めた案件では、どのように役割を分けましたか | 役割の分け方について、具体的な説明があるか |
| 依頼者側の弁護士との協力 | こちらで依頼している弁護士と直接やり取りしてもらえますか | 依頼者側の弁護士と協力する形に対応できるか |
| 報告書の形式 | 弁護士が求める形式に合わせて、報告書を作成できますか | 形式の調整に応じられるか。サンプルを示せるか |
| 調査の設計への関与 | 調査の内容を決める段階から、弁護士と相談して進められますか | 結果を渡すだけでなく、設計から協力できるか |
| できないことの説明 | 今回の事案で、調査で示せないことは何ですか | 限界についても説明があるか |
結果を弁護士に渡したことがある、という関わり方と、弁護士の方針に沿って調査を設計した、という関わり方では、進め方が大きく違います。初回相談で、弁護士と調査の内容を決めた経験があるかを聞き、説明の具体性で判断してください。
弁護士の紹介を受ける場合の注意
調査会社から弁護士の紹介を受けること自体は、珍しいことではありません。ただし、紹介に対して金銭などの見返りがやり取りされている関係には注意が必要です。こうした関係は、弁護士法上の問題になり得るとされています。
紹介を受ける場合は、弁護士と直接契約し、報酬の取り決めも弁護士との間で行ってください。すでに依頼している弁護士がいる場合は、その弁護士と調査会社が協力する形で進めることもできます。
まとめ
弁護士と調査会社の連携は、手続きを見据えた企業の不正対応において、実効性を高める進め方です。
弁護士が方針を設計し、調査会社がその方針に沿って事実を確認し、弁護士が記録を手続きに組み込む。この役割の分担が、結果を左右します。
- 弁護士は法的な評価・方針の設計・手続きの選択を担い、調査会社は事実の確認・記録・報告書の作成を担う
- 原則は弁護士に先に相談する。事実がまだ固まっていない段階では、状況整理から調査会社に相談する進め方もある
- 記録の集め方は、目的とする手続き(懲戒・仮処分・損害賠償・刑事手続き)に応じて設計する
- 報告書は、調査方法の明示・日時の正確さ・記述の客観性・記録のつながり・作成者の明示を整える
- 連携体制は、役割の分け方や設計段階からの協力について、説明の具体性で確認する
- 弁護士の紹介を受ける場合は、弁護士と直接契約する
「弁護士と調査会社をどう連携させればよいか分からない」という段階でも、状況整理からご相談ください。当社の進め方もあわせてご説明します。
関連記事:行動調査とは?法人が依頼する目的・費用相場・調査報告書の活用方法を解説
よくある質問(FAQ)
既に調査会社に依頼してしまった後で弁護士に相談しても意味がありますか?
意味があります。すでにある報告書を弁護士に見てもらうことで、どこまで使えそうか、何が足りないかを確認できます。足りない部分を補う追加の調査を設計すれば、すべてをやり直すより効率よく記録を補える場合があります。
ただし、対象者に調査のことが伝わっている場合は、追加の調査で記録を得にくくなることがあります。早めに弁護士に相談してください。
弁護士費用と調査費用の両方がかかる場合、費用に見合いますか?
見合うかどうかは、被害の規模、回収できる見込み、目的とする手続きによって変わります。費用をかけても被害が回収できるとは限らない点は、先に理解しておいてください。
費用を抑えるには、弁護士が目的を明確にしたうえで、必要な範囲に絞って調査を設計することが有効です。初回相談で、予算の上限・案件の内容・期待する結果を、弁護士と調査会社の双方に伝えてください。
弁護士から紹介された調査会社と自分で探した調査会社、どちらが良いですか?
どちらが良いとは一概にいえません。弁護士からの紹介は、その弁護士との連携の実績があるという点で進めやすさがあります。自分で探した会社でも、弁護士と協力して進められる会社であれば問題ありません。
どちらの場合も、本記事の確認ポイントで判断してください。紹介の見返りとして金銭がやり取りされている関係は避けてください。
