素行調査の完全マニュアル|企業が押さえる調査内容・費用・期間・違法性と依頼の進め方

行動調査
素行調査の事実確認に向けて資料を整理するイメージ

従業員や役員の行動に疑問があっても、噂だけでは判断できません。素行調査は、行動を確認し、判断の土台となる事実を整理する調査です。

本記事では、法人向け調査の取材をもとに、調査内容・費用・期間・依頼の流れ・注意点を解説します。知りたい項目は、目次や下のボタンから確認できます。

1.素行調査とは何か|対象者の行動を事実として確認する調査

資料とパソコンを整理したデスクのイメージ
資料整理のイメージ(実際の調査資料ではありません)|写真:Hanna Pad / Pexels

「いつ・どこで・誰と・何をしていたか」を記録する

素行という言葉には、日頃の振る舞いや生活態度という意味があります。調査の実務で中心になるのは、その人の性格を評価することではなく、外から確認できる行動を記録することです。出発した時刻、立ち寄った場所、滞在した時間、他の人と合流した場面などを、確認できた範囲で整理します。

例えば「午後は顧客訪問をしていた」という報告がある場合、会社が知りたいのは「真面目な人か」という抽象的な評価ではありません。会社を出た後にどこへ向かったのか、訪問したとされる時間に何が確認できたのか、社内の報告と照合できる情報があるのかという具体的な事実です。

もっとも、建物へ入った事実から内部での会話までは分かりません。誰かと会っていたとしても、その相手との関係や話題が分かるとは限りません。見えた行動と、そこから想像した事情を分けることが、調査結果を扱ううえでの基本になります。

企業では確認と証拠収集の両面がある

法人向けの取材では、素行調査には「実態の確認」と「記録の確保」という二つの側面があると説明されました。会社が把握していない行動を確認するだけでなく、その後に社内で説明したり、弁護士へ相談したりするときに参照できる形へまとめる役割です。

噂だけでは、本人への質問も曖昧になりがちです。「仕事をしていないと聞いた」と伝えても、いつ、何を問題にしているのかが定まりません。日時や資料が整理されていれば、「この日のこの報告と、確認された行動の関係を説明してほしい」という確認へ進めやすくなります。

一方、調査記録は会社の期待に沿うとは限りません。会社が疑っていた行動が確認できない場合も、正当な業務の一部と分かる場合もあります。疑いが解けることも含めて事実確認であり、最初から処分の結論を決めて依頼すると、結果を都合よく解釈する危険があります。

私生活全般を把握することが目的ではない

企業が対象者の行動を知りたいと考えても、会社の関心があるだけで広い調査が正当化されるわけではありません。勤務報告との整合性を確認したいのであれば、その時間帯や業務との関係を中心に検討し、関係のない休日の交友関係や家族の生活まで対象を広げない設計が必要です。

ここで役立つのは「この情報が分かったら、会社のどの判断が変わるか」という問いです。答えを説明できない項目は、調査対象として必要なのかを見直します。情報の量を増やすよりも、判断に必要な範囲へ絞る方が、費用と情報管理の両面で計画を立てやすくなります。

2.行動調査・浮気調査・信用調査との違い

行動調査は素行調査と重なる部分が大きい

取材では、素行調査は行動調査に近いものとして説明されています。人を中心に移動や滞在を確認するという意味で、両者は大きく重なります。ただし、サービス名の使い方は調査会社によって異なるため、名称だけで依頼内容が一致していると判断しないことが大切です。

ある会社では「素行調査」に公開情報の確認を含め、別の会社では実際の行動確認に限定することも考えられます。見積書では、何をするかだけでなく、何をしないかも確認してください。SNS調査、所在確認、帳簿調査などが当然に含まれると考えると、期待する成果物とのずれが生まれます。

浮気調査は目的の呼び方で、行動確認が使われることがある

浮気調査は、何を明らかにしたいかという目的に着目した呼び方です。そのための手段として行動確認が使われることはありますが、行動の記録自体と、不貞行為などの法的な評価は同じではありません。親しく歩いている写真だけで、あらゆる結論を出せるわけではない点に注意が必要です。

企業が社内の男女関係を問題にする場合も、私的な関係を暴くことから始めるのは適切ではありません。出張費の不適切な利用、業務上の優遇、ハラスメント、職場への具体的な影響など、会社として確認すべき問題を整理します。調査の目的が変われば、必要な資料も調査範囲も変わります。

信用調査や現地調査は、確認する対象と情報源が違う

信用調査では、取引や契約の判断に必要な情報を、目的に応じて確認します。会社の登記や公開情報、取引の実態など、行動確認とは別の資料が重要になる場面があります。「信用」という名称で、家族関係や出自など仕事に関係のない情報まで収集してよいわけではありません。

現地調査は、人を継続して見るのではなく、拠点や場所の状況を確認することに重点があります。事務所が存在するのかという確認と、特定の担当者がどこへ移動したのかという確認は、必要な作業が異なります。相談時には、名称を選ぶより「何が分からず、何を確認したいか」を伝える方が話を進めやすいでしょう。

調査の呼び方主に確認したいこと依頼前に確認する点
素行調査・行動調査特定の人の移動、滞在、接触など対象期間、確認方法、記録範囲
浮気調査配偶者などの関係に関する事実依頼目的と法的に必要な資料
信用調査取引や契約判断に必要な情報情報源、確認項目、取得の適法性
現地調査拠点や場所の状況確認場所、立入りの可否、成果物

どの調査を選ぶ場合でも、サービス名より、確認項目と成果物の合意が先です。行動の写真が必要なのか、時系列の整理が必要なのか、社内記録との照合まで頼めるのかを、一つずつ確かめてください。

3.企業が素行調査を検討する五つの場面

取材では、役員の不正に関する相談、商品の持ち出し、社内の私的関係、従業員の勤務実態、業務委託先の行動確認が挙げられました。ここで紹介するのは取材先の経験に基づく相談類型であり、業界全体の相談件数や順位を示す統計ではありません。

役員の営業活動や勤務実態が分からない

営業を担当している役員が外出を繰り返している一方で、具体的な活動報告がなく、株主や他の役員から説明を求められている。こうした場面では、売上が少ないという結果だけでなく、担当業務や報告内容と実際の活動がどう対応しているかが問題になります。

取材では、営業活動の実態が分からない役員について調査したところ、自宅への帰宅やジムへの立寄りが確認された経験が紹介されました。ただし、これらの行動だけで職務上の義務違反が確定するわけではありません。役員としての権限、予定、裁量、会社の承認内容などとの照合が必要です。

商品や備品が納品先とは別の場所へ運ばれている疑いがある

取材で挙げられたのは、大型の設備を倉庫から運び出した後、顧客先ではなく自宅へ持ち帰り、荷下ろししていた場面です。商品がどこへ運ばれたかという外部の事実は、社内の在庫資料だけでは確認しきれないことがあります。

しかし、自宅への搬入と転売、横領、会社の損失額は別の論点です。持出しの承認がなかったか、品番や数量が一致するか、その後に返品や納品がなかったかなどを確認します。ネット上の出品が疑われても、写真が似ているだけで同一品や同一出品者と断定しないことが必要です。

社内の私的関係が経費や業務へ影響している

役員と従業員の関係について噂があり、同じ日程の出張や宿泊費の申請が続いている場合、企業がまず整理すべきなのは、会社の資金や権限がどう使われたかです。単に親しいというだけで、人事上の不利益な扱いへ進めるべきではありません。

出張申請の目的、訪問先、宿泊費、承認経路を確認し、外部での行動記録が必要かを検討します。ハラスメントの訴えがある場合には、被害申告者の保護や相談窓口の対応も必要です。素行調査だけで職場の問題をすべて解決しようとせず、問題ごとの担当者と手続を分けます。

従業員の勤務報告や休職中の説明に疑問がある

リモート勤務中の長時間の外出、外回りの報告と訪問先の不一致、休職中の別の就労などが相談のきっかけになる場合があります。ただし、外出している姿や車を運転する姿だけでは、業務を怠ったことや休職理由が虚偽であることは判断できません。

まず、勤務形態、休憩、有給休暇、担当業務、医師の意見など、当日の行動を評価する前提を確認します。会社が許可した働き方を把握せずに調査すると、通常の休憩や認められた通院を不正と誤認するおそれがあります。見たい場面を先に決めるより、説明と食い違う点を特定することが重要です。

業務委託先や社内へ出入りする関係者の実態を確認したい

業務委託先の担当者が契約どおりに動いているか、会社の商品や情報が別の場所へ持ち出されていないかを確認したい場合もあります。この場合、社員に適用される就業規則をそのまま判断基準にすることはできません。契約で合意した業務や成果物、守秘義務などを先に確認します。

相手が複数社の仕事をしていること自体は、当然に不正を意味しません。会社が専属だと思っていたとしても、契約上は兼業が認められている場合があります。契約の読み違いを行動調査で補おうとせず、どの義務への違反を疑うのかを具体的にしたうえで、必要な事実確認を組み立てます。

4.調査で分かること・分からないこと

行動の記録から確認できる範囲

調査の条件が整えば、対象者が会社を出た時刻、移動の経過、施設への出入り、目視できる荷物の移動、他者との合流などを記録できる場合があります。写真や動画に時系列の説明を加えることで、社内資料と対応させやすくなります。

ただし、同じ施設へ入った人がいるからといって、必ず会っていたとは限りません。荷物が運ばれたとしても、梱包の外から中身や所有権を確認できない場合があります。写真に写る情報の具体性に応じて、「確認できた」「可能性がある」「分からない」を分ける必要があります。

頭の中、建物の内部、過去の行動を自由に確認できるわけではない

素行調査は、対象者が何を考えていたかを直接調べるものではありません。建物の外から内部の取引や会話を把握できるとは限らず、調査開始前の行動を遡って撮影することもできません。調査日以外に何があったかも、その日の記録から自動的に分かるわけではありません。

「先月の金曜日にどこへ行ったか」を知りたい場合、これからの行動確認だけでは直接の答えにならないことがあります。既存の申請書や業務資料、適法に保存された記録など、別の情報が必要です。過去の事実と今後の行動を混ぜず、調査で埋められる空白を整理してください。

不正が見つからなかった結果も、範囲を限定して読む

ある日に問題の行動が確認されなかったとしても、「過去にも今後にも不正はない」とまではいえません。同様に、一度の外出が確認されたからといって「いつも仕事をしていない」とはいえません。記録が説明できるのは、原則として確認した範囲の事実です。

報告を受けたら、調査日時、対象となった時間、確認できなかった時間、観察が終了した理由を確かめます。問題がなかった記録と、観察できなかった記録も違います。会社に都合のよい部分だけを抜き出さず、調査条件を含めて評価することが、誤った意思決定を防ぎます。

確認できる場合がある事実そのままでは結論にできないこと
勤務時間帯に施設へ入った勤務を怠った、無断で休んだ
休職中に外出した働ける状態だった、不正受給だった
商品らしき荷物を運んだ会社の商品を横領した
特定の人と合流したその人との関係や会話内容
調査日に問題行動が見えなかった他の日にも問題がない
観察した事実・社内資料との照合・専門家の評価の三段階
図1 観察した行動と、不正・法的責任の判断は分けて考える。

5.相談するタイミング|本人への追及前に整理したいこと

確証がなくても相談はできるが、疑いの根拠は整理する

調査を依頼する前に、会社が不正を証明しきっている必要はありません。そもそも確かめられていないからこそ、相談が必要になることがあります。ただし、「何となく信用できない」「上司と合わない」という印象と、勤務報告の不一致や在庫の不足といった具体的な問題は分けて伝えます。

例えば「最近怪しい」ではなく、「三回の訪問報告に対して、社内に残る予定表には訪問先が記載されていない」「ある商品の出庫記録と納品記録の数量が一致しない」と整理します。確認済みの事実、他者から聞いた話、担当者の推測を分けるだけでも、相談の質は変わります。

取材では、本人へ問い詰める前の相談が勧められていました。追及後は行動が変わり、確認したかった場面が見られなくなる場合があるためです。ただし、早く相談することと、その日のうちに調査を開始することは別です。まず必要性と適法性、他の確認方法の有無を検討します。

急いで本人へ連絡する前に、既存資料を保全する

担当者が感情的になって「すべて分かっている」と告げると、その後の説明が事実の確認より対立の応酬になりやすくなります。自分の手元に何があり、どこまで説明できるのかを確かめないまま質問すると、聞くべき項目も抜けてしまいます。

まず、会社が適法に扱える申請書、日報、在庫資料、契約書などの所在を確認してください。原本を変更せず、確認用の複製と作業メモを分けます。個人のスマートフォンを勝手に開いたり、私用アカウントへログインしたりして資料を増やすことは、保全とは別の行為です。

一方で、被害が続いている、誰かの安全が脅かされている、通報者への報復が懸念されるという場合は、行動確認を優先して対応を遅らせるべきではありません。安全確保や権限の適切な管理など、先に必要な対応を弁護士や社内の責任者と検討します。

相談と依頼を分けると、過剰な調査を避けやすい

相談では、「何を知れば次の判断ができるか」を整理します。その結果、行動調査が必要と分かる場合もあれば、まず帳簿の照合や勤務制度の確認をすべきだと分かる場合もあります。相談したから契約しなければならないという前提で考える必要はありません。

特に役員が対象の場合は、誰が会社として依頼を承認できるのかも問題になります。調査対象者本人が通常の決裁者である場合や、社内の対立がある場合には、担当者だけで進めず、会社の機関設計や権限を踏まえて弁護士へ確認します。早い段階で相談し、実施の判断は根拠をそろえて行うという順番が重要です。

調査の必要性がまだ判断できない場合は、把握している事実と資料から相談できます。

法人の事実確認について相談する

6.適法な素行調査の基本|届出があっても特別な権限はない

探偵業は許可による万能な調査資格ではない

警察庁の説明では、探偵業には営業所ごとの届出などの規律があります。事業者を選ぶときには、契約する法人や営業所の情報、標識の記載などを確認します。「警察公認」「届出があるから何でもできる」といった説明を、調査手段の適法性の根拠にしてはいけません。

探偵業法は、他の法令で禁止・制限される行為を行えるようにするものではありません。調査の目的が会社の不正確認であっても、他人の住居や敷地への無断侵入、権限のない情報取得などが正当化されるわけではありません。具体的な方法が曖昧な場合は、契約前に説明を求めてください。

参考:警察庁「探偵業について」

公共の場所であっても、無制限な撮影ができるわけではない

道路などから見える行動であっても、どのような目的、方法、時間、範囲で確認するかによって、プライバシーや他の権利への配慮が必要になります。「外から見えるから常に問題がない」という理解では、過剰な調査を止められません。

会社が知りたいのが商品の搬出先であるなら、その確認に必要な場面を中心に計画します。対象者の自宅内の生活や家族の行動など、会社の問題との関係を説明できない情報へ広げないことが基本です。結果に偶然写った第三者の情報についても、報告や共有の必要性を検討します。

取材先では、GPSの利用や私有地への無断立入りを行わず、実際の行動確認を中心とする方針が説明されました。この方針は取材先の対応範囲であり、すべての調査会社が同じ方法を採るという意味ではありません。依頼先が採る手法は、個別に確認してください。

私用アカウント、位置情報、家族情報へ安易に手を伸ばさない

パスワードを知っていることと、そのアカウントへアクセスする権限があることは同じではありません。会社が支給した端末であっても、内部の情報を無条件で閲覧できると決めつけず、規程、利用目的、権限、対象情報を確認する必要があります。

また、位置情報を継続取得することは、人の生活全体の把握につながります。会社名義の車や機器であることだけを理由に、その利用者の行動を際限なく追ってよいとは考えないでください。本記事では、GPSの設置方法や秘密裏の位置把握を勧めることはしません。具体的な運用は、必要性とルールを専門家と検討します。

素行調査に家族の病歴、思想信条、出自などの情報を加えても、勤務報告や商品の行方の説明には直結しません。仕事と関係しない情報を集めて圧力をかけるような使い方は避けます。調査の目的に不要な情報は、最初から取得対象に入れない設計が必要です。

契約前には重要事項と利用目的を確認する

警察庁は、探偵業の契約に際する説明・書面交付や、調査結果を違法行為などに用いない旨の書面について説明しています。依頼者側も、結果を誰が何のために使うのかを言語化しておくことが大切です。契約書に署名するだけで目的の妥当性が自動的に確認されるわけではありません。

調査結果を社内で広く配布する、SNSへ公開する、私的な弱みを使って退職を迫るといった利用は、適切な事実確認の目的から外れます。手段だけでなく、結果の使い方にも責任が伴います。 依頼時点で利用目的を限定し、後から別の目的へ流用したくなったときには、改めて適否を確認してください。

7.自社でできる確認と、専門家へ任せる範囲

まず会社の中で把握できる事実を確認する

外部へ依頼する前に、会社が権限に基づいて扱える業務資料を整理すると、調査範囲を狭められます。勤務表、承認済みの出張申請、在庫の出庫記録など、問題との関係が明確な資料から始めます。すべてを一度に集めるのではなく、疑問点と資料を一対一で対応させます。

例えば、在庫の不足なら「どの商品が、いつ、何個、どこへ出たことになっているか」を先に確認します。誰が怪しいかを決めてから資料を探すと、その人に関係する不一致だけを拾うことになりかねません。入力ミス、処理の遅れ、承認済みの移動など、別の説明の余地も同じように確認します。

社内モニタリングと、外部の行動確認は区別する

個人情報保護委員会は、個人データを扱う従業者の監督の一環としてビデオやオンライン等のモニタリングをする場合について、目的や責任者、運用ルールなどの留意点を示しています。これは、企業があらゆる目的で社員を秘密裏に監視してよいという説明ではありません。

すでに業務システムに記録がある場合も、閲覧権限がある人が、必要な目的と範囲に絞って確認します。調査のために新しい監視を始めるのであれば、既存の運用と同じだと考えず、社内規程や周知の要否を含めて検討してください。技術的に取得できる情報と、取得・利用してよい情報は分ける必要があります。

参考:個人情報保護委員会「従業者のモニタリングに関するQ&A」

社員による尾行は、負担とトラブルを抱えやすい

社内の担当者が自ら対象者を追う場合、顔を知られていることによる対立や、通常業務への支障、長時間の待機、移動中の安全などが問題になります。写真を撮れても、いつ、どこで、誰が確認したのかが曖昧であれば、その後に説明しにくくなります。

ただし、「社員が行動を確認すれば必ずストーカーになる」「探偵なら必ず合法になる」という線引きはできません。適用される法令や評価は、目的や具体的な行為によって変わります。取材で語られた負担や顔を知られていることの難しさは実務上の論点として捉え、法的な結論と混同しないでください。

専門家に任せる意味は、秘密の道具で何でも明らかにすることではありません。必要な場面を適法な方法で確認し、第三者へ説明しやすい記録へ整理することにあります。社内の資料だけで足りる部分は社内で扱い、外部での行動確認が必要な部分を切り出すと、役割が明確になります。

8.依頼前に用意する資料|事実・伝聞・推測を分ける

一枚の相談メモから始める

最初から完璧な資料を作る必要はありません。誰について、どのような業務上の問題があり、何が確認できていないのかを一枚にまとめます。担当者が交代しても同じ説明ができるように、主観的な表現を減らし、日時と資料名を添えます。

書き方の例は、「営業担当A氏について、十月六日と十三日の訪問報告と予定表に不一致がある。訪問の有無とその時間帯の行動を確認したい」というものです。これは説明用の架空例ですが、相手への評価ではなく確認したい問題を記載する点が重要です。「不真面目」「嘘つき」といった形容は、調査項目に置き換えます。

資料一覧には、入手元と確認できる範囲を添える

資料を渡すときは、ファイル名だけでなく、何の資料で、誰が管理し、どの期間を含むかを説明します。内容が最新なのか、手入力なのか、別の承認記録があるのかによって、資料の読み方が変わるためです。個人情報が大量に含まれる場合は、そのまま一式渡す必要があるかを確認してください。

用意するもの整理する内容注意すること
相談メモ問題、判明時期、確認したい点感情的な評価を分ける
対象者情報業務上の立場、本人特定に必要な情報関係のない家族情報を広げない
勤務・活動資料日報、予定、申請、担当範囲休暇や承認済み変更も含める
商品・経費資料品番、数量、申請、承認、請求元資料と作業用の表を分ける
社内規程・契約就業規則、委任・委託契約など対象者に適用される版を確認する
既存の確認履歴本人への質問、回答、社内相談誰が何を伝えたか残す

不利な情報だけでなく、別の説明につながる情報も渡す

会社が不正を疑っていても、対象者が承認を受けていた記録や、別の担当者による処理ミスが分かった場合には、それも共有します。都合の悪い情報を伏せて調査を進めると、調査会社や弁護士が誤った前提で判断してしまいます。

特に、フレックスタイムや裁量の大きい働き方、役員の個別の担当範囲は、外から見た行動の意味を変えます。通常勤務なら不自然に見える時間の外出でも、制度上は説明できる場合があります。判断を変える可能性のある前提は、先に共有することが大切です。

本人を特定するための写真などを求められた場合も、業務目的で適法に保有し、提供できる情報かを確かめます。似た人を取り違えれば、調査結果全体の信頼性に関わります。情報を増やすことより、必要な情報が正確であることを優先してください。

9.相談から報告書の受取りまでの流れ

目的の確認と、調査項目の絞込み

初回相談では、対象者と会社の関係、疑問が生まれた経緯、既存の資料、会社が予定している対応を説明します。「何をしていたか全部知りたい」という希望は、そのままでは範囲が広すぎます。勤務報告との不一致、商品の搬出先など、確認したい点に置き換えます。

取材では、調査会社が自分たちのやりたい調査を先に売るのではなく、依頼者の目的と、弁護士が必要とする事実に合わせて組み立てる方針が語られました。この考え方では、調査日数を増やす前に、どの記録が必要なのかを確認します。目的が曖昧なまま長期契約へ進むことは避けましょう。

見積もり、契約、実施条件をそろえる

調査対象の期間や時間帯、人数、実費、報告書の範囲などを確認したうえで、契約内容を読みます。口頭で「だいたいこのくらい」と説明された条件が、書面でも同じになっているかを確かめてください。追加調査の決裁者と連絡先もこの段階で決めます。

実施日に対象者が外出しなかった場合や、予定変更があった場合の扱いも重要です。待機時間が料金に含まれるのか、別日への変更ができるのか、当日の中止はどのように精算するのかを確認します。結果が出なかった場合の説明や報告方法まで合意しておくと、終了後の認識のずれを減らせます。

調査中の連絡と、途中で方針を変える条件

会社側の窓口は、できるだけ一本化します。人事、経営者、現場責任者が別々の指示を出すと、予定変更や追加費用の承認が混乱します。対象者の予定が変わったときに誰が連絡するか、連絡を受けた人がどこまで決められるかを明確にしてください。

調査途中で想定と異なる行動が確認されても、その場の勢いで無制限に延長しないことが大切です。事前に「何が起きたら相談するか」「連絡がつかないときはどうするか」を決めておきます。安全や適法性に問題が生じる場合には、成果より中止を優先する条件も共有します。

報告を受け、社内資料と照合して次の判断へ進む

報告書は、受け取って終わりではありません。日時、場所、写真、確認できなかった部分を読み、元の疑問にどこまで答えが出たかを整理します。報告書だけで足りない点があれば、それが行動調査で埋められるのか、別の資料や本人への確認が必要なのかを検討します。

弁護士へ渡す際には、報告書と社内資料を分けず、対応する日時や項目が分かるようにします。最後に、追加調査、本人への事実確認、社内手続の実施、調査の終了などを判断します。調査結果が十分なら、最初の契約で想定した日数を使い切ること自体を目的にしないでください。

相談・計画と契約・調査・報告・対応の五つのステップ
図2 相談から調査後の対応まで。目的・範囲・追加費用の承認を先に決める。

10.素行調査の費用は何で決まるか

時間単価だけでは、総額を比較できない

素行調査の料金を見るとき、目立つ単価だけで高い・安いを決めると、契約後に総額の違いが分かることがあります。例えば、調査員一人あたりの単価なのか、チーム全体の単価なのかで、同じ数字でも意味は変わります。最低稼働時間がある場合は、短時間の依頼でもその時間分が料金の対象になることがあります。

見積もりでは、基本料金、人数、時間、交通費などの実費、報告書作成、税の扱いを分けて確認します。会社によって費目の含め方が違うため、項目名が同じでも内容が同じとは限りません。比較するなら、同じ調査目的、時間帯、成果物を前提にそろえる必要があります。

本記事の取材には、実際の料金表や統一条件の見積書は含まれていません。そのため、裏付けのない相場金額は掲載していません。自社の条件に当てはめた概算を知りたい場合は、調査対象と確認したい場面を説明し、追加費用まで含めた見積もりを取得してください。

料金の仕組みによって、確認する条件が変わる

時間に応じた料金なら、開始と終了の定義、待機中の扱い、延長単位を確認します。会社を出る前の準備や現地への移動も計上されるのかによって、同じ観察時間でも請求額が変わる可能性があります。担当者が「見ていた時間だけ」と理解していても、契約では別の範囲になっていることがあります。

一定時間をまとめたプランであれば、未使用分の扱い、利用期限、別の日へ振り分けられるかを確かめます。成果に応じた料金なら、何を成果とするか、誰がどう確認するかを明確にします。「不正の発覚」「対象者の所在確認」「写真の取得」はそれぞれ違うため、曖昧な成功条件のまま契約しないことが重要です。

いずれの仕組みでも、追加料金が発生する条件を先に書面で確認することが基本です。延長を断ると既存の報告書が受け取れないのか、調査を途中終了した場合の精算はどうなるのかなど、意思決定に影響する条件は契約前に質問してください。

見積書で確認する費目と質問

確認項目質問の例
調査員の人数なぜその人数が必要で、途中変更はあるか
課金時間開始・終了、最低時間、待機、移動はどう扱うか
実費交通費等の範囲、上限、事前承認の条件は何か
延長・追加日単位、単価、承認者、連絡不能時の扱いはどうなるか
予定変更対象者が動かなかった日や当日中止はどう精算するか
成果物報告書、写真、動画、説明のどこまで含まれるか
支払条件前払額、残額の支払時期、税込総額はいくらか
解約中途解約、返金、未使用分の扱いはどうなるか

費用を抑えるには、必要な場面を具体的にする

取材では、曜日や時間帯を絞って実施したり、会社側で分かっている会議の終了時刻を共有したりして、必要な場面から確認する考え方が紹介されました。これは、限られた予算を判断に必要な事実へ配分するための工夫です。長く見続けること自体が、調査の質を保証するわけではありません。

ただし、費用のために対象者へ不自然な行動をさせたり、問題の行為を誘発したりするべきではありません。既存の予定を正確に共有し、無駄な待機を減らせるか相談する範囲で考えます。会社の都合で調査条件を極端に削ると、本人の識別や記録の連続性が不足する場合があるため、削ることの影響も確認しましょう。

予算上限を伝えるときは、「この金額で不正を証明してほしい」ではなく、「この範囲で何が確認でき、何が残るか」を尋ねます。最初の調査で次の判断に必要な情報がそろえば終了し、足りなければ必要な理由を説明してもらう。この区切りを設けると、追加契約の判断をしやすくなります。

社内調査と外部の調査の役割を比較したい場合は、社内調査・弁護士調査・探偵調査の費用対効果を比較も参考にしてください。

11.期間の目安|実働日数と納品までの日数は違う

四日間の調査でも、一か月以上かかる場合がある

調査期間は、調査員が実際に動く日数と、相談から報告書を受け取るまでの経過日数を分けて考えます。取材では、短い案件で二〜三週間程度の例がある一方、一か月の中で毎週金曜日を確認し、その後に報告書をまとめる例も紹介されました。

後者の場合、実働は四日程度でも、対象日の間隔によって一か月が経過します。さらに報告書作成に一週間〜十日程度を要する例では、全体で一か月半ほどになることがあります。これらは取材で示された進行例であり、すべての案件に共通する納期や標準期間ではありません。

「調査は何日ですか」とだけ聞くと、実働の話なのか、納品の話なのかがすれ違います。相談、準備、実施、整理、納品という工程に分け、開始可能日と最終報告の予定日をそれぞれ確認してください。会社側の資料準備や意思決定が遅れる場合、その時間も全体の期間に影響します。

期間を左右するのは、確認したい行動が起きる条件

毎日同じ業務をしている人と、月に一度だけ特定の場所へ行く人では、確認機会の作り方が異なります。何曜日に何が起きるか分からない場合は、最初の確認結果を受けて、次の日程を見直す必要があるかもしれません。最初から一律の日数で足りるとは考えないでください。

また、本人の出張や休暇、会社側の予定変更、天候や移動条件などによって、当初の計画どおりに進まないこともあります。「何日以内なら必ず記録できる」という保証ではなく、どの条件なら確認の機会があり、条件が変わったらどう見直すかという説明を求める方が現実的です。

社内の期限は、調査の相談時に共有する

取締役会や株主への説明、社内の面談、契約更新など、結果を使いたい日が決まっている場合は、最初に伝えてください。調査が終わる日と、報告書を読んで弁護士と検討できる日は異なります。最終日に報告書を受け取っても、十分な検討時間がないかもしれません。

暫定的な事実の共有が可能か、正式報告書と何が違うか、未確認事項がある場合にどう説明するかも確認します。会社の対応期限から逆算し、報告を読む時間まで確保することが必要です。急ぐ事情があっても、確認できていない内容を確定した事実として扱わないでください。

毎週金曜日の実働4日と納品まで約1か月半の進行例
図3 実働日数と経過期間の違い。取材で紹介された例であり、標準納期ではない。

12.報告書の見方|写真の枚数より、事実を追えることが重要

第三者が同じ経過を理解できるかを確認する

取材では、報告書は日時、場所、行動を写真とともに整理し、読む人が動きをイメージできるものとして説明されました。依頼前に、個人情報を適切に処理した見本が確認できるかを尋ねると、納品物の理解につながります。写真だけの一覧なのか、時系列の説明が付くのかも確認してください。

報告書を読むときは、対象者の識別、記録の時刻、場所、行動の説明、写真との対応を確認します。人が写っているだけでは、本人なのか、どの場面なのかが伝わりません。文章だけで断定されていても、根拠となる記録が分からなければ、後から説明する際に困ることがあります。

事実と評価を分けた記録例

次の表は、報告書の読み方を説明するための架空例です。実案件の調査結果や、法的な証拠の十分性を示すものではありません。分単位の時刻や場面は、記録の構造を理解するために作っています。

時刻確認した事実の書き方ここでは断定しないこと
10時08分対象者が会社の出入口から出た無断で職場を離れた
10時42分対象者が施設Aの入口へ入った業務を怠って私用を済ませた
12時06分対象者が施設Aから出た施設内で特定の活動をしていた
12時30分別の人物と合流して移動した共謀して不正を行った

この記録を勤務報告や承認履歴と照合して、初めて会社の疑問との関係が見えてきます。対象者が休憩を取っていた可能性や、業務上の用件があった可能性も検討します。写真が示す事実を超えて、意図や違反を読み込まないことが大切です。

確認できなかった時間や場所も読む

報告書には、確認できた場面だけでなく、見えなかった部分の扱いも必要です。例えば施設の内部が確認できない場合、その時間に何をしていたかは分かりません。途中で観察できなくなった場合も、再び確認した場面との間を想像でつながないでください。

「不明」があることだけで報告書の価値がなくなるわけではありません。むしろ、不明な範囲が明示されていれば、次に何を確認するべきかを判断できます。空白を隠した連続的な説明よりも、事実と限界が分かる説明の方が、社内や専門家への共有に適しています。

元データ、修正履歴、保管方法を確認する

写真や動画のデータがどの範囲で納品されるか、報告書に掲載した画像とどう対応するかを確認します。閲覧用の画像に説明を付ける場合も、元のデータと区別できる形にします。会社の担当者が画像へ直接書き込み、元の状態が分からなくなる扱いは避けてください。

報告書に氏名や日時の誤記が見つかった場合は、自己判断で上書きするのではなく、作成者へ確認します。どこを修正したか、旧版と新版が区別できるようにしておくと、後の説明がしやすくなります。受領後に誰へ渡したかも記録し、社内の個人端末や私用チャットへ散在させない運用が必要です。

13.役員の勤務実態を調べるときの注意点

社員と同じ勤怠基準で評価しない

役員について会社を出た時刻や訪問先を確認しても、それだけで職務上の問題が決まるわけではありません。役員としてどのような職務を担い、どこまで裁量があり、会社に何を報告することになっていたかを確認します。従業員としての立場を兼ねているかによっても、整理すべき関係は変わります。

売上が上がっていないことと、営業をしていないことも別です。成果が出ていなくても必要な活動を行っている可能性があり、活動があっても報告の仕方に問題がある場合があります。調査は経営評価のすべてを代替するものではなく、評価に必要な一部の事実を補うための手段です。

株主への説明には、行動記録だけで足りない場合がある

株主や他の役員へ説明するために調査を検討するなら、「どの日のどの報告について、何が分かったか」を対応させます。外出先の写真だけを並べても、会社の問題との関係が見えにくくなります。担当業務、会社の指示、本人の報告、確認された事実を別々に整理してください。

ただし、社内や株主への説明が必要だからといって、報告書のすべてを配布してよいとは限りません。判断に必要な事実と、無関係な私生活の情報を分け、共有範囲を検討します。説明資料には、確認した範囲や未確認部分も併記し、事実が示す以上の断定をしないことが重要です。

解任や退任の判断は、会社法上の手続と切り離せない

取材では、役員の退任や株主への説明を見据えた相談が紹介されました。しかし、調査会社が報告書を作成することと、会社が役員を解任できることは同じではありません。会社の種類、機関設計、契約関係、必要な決議や責任の問題などは、個別に整理する必要があります。

依頼時には「辞めさせるための証拠」という言い方だけで進めず、弁護士と確認したい論点を共有します。調査結果に応じて、説明を求める、報告体制を改める、担当を見直すなど、他の対応が適切な場合もあります。結論を先に固定しないことが、会社としての説明可能性につながります。

14.商品の持出し・横流しが疑われるときの確認順序

在庫管理を説明するための倉庫のイメージ
倉庫・在庫管理のイメージ(取材事例の現場ではありません)|写真:Freek Wolsink / Pexels

商品の移動と、権限のない処分を分けて考える

商品を社外へ運んだ姿は重要な手掛かりになり得ますが、会社の商品だったか、業務上の理由があったか、誰が承認したかは別に確認します。修理、返品、一時保管、顧客への配送など、正当な理由で社外へ移動することもあるためです。

まず、品番、製造番号などの識別情報、数量、出庫時点、納品先、承認経路を整理します。外観だけでは同一商品と判断できない場合は、その限界を残します。似た荷物を見たことだけで、社内の在庫不足と結び付けると、事実関係を誤るおそれがあります。

社内資料と外部記録を一つの時系列へ置く

例えば「出庫記録では顧客B向けとされているが、外部記録では別の場所への搬入が確認された」という形にすると、次の確認事項が明確になります。顧客Bへ後日納品されたのか、搬入先は会社が認めた保管場所か、担当者の説明は何かを順番に確認できます。

取材で紹介された設備の持帰りの場面も、行動の確認と、商品の帰属や処分の評価は分けて扱う必要があります。調査記録だけで被害額を計算するのではなく、在庫や会計の資料と照合します。出品価格が分かっても、その金額がそのまま会社の損害になるとは限りません。

オンライン出品を見つけても、本人と商品を断定しない

公開ページで似た商品が見つかった場合には、確認した日時や表示内容を記録することが考えられます。ただし、出品者名が似ている、写真の背景に見覚えがあるといった理由だけで、対象者のアカウントだと断定してはいけません。他者による転載や別の商品という可能性もあります。

本人を装ってログインする、購入者になりすまして不適切な接触をするなど、別の問題を生む方法で確かめようとしないでください。取材先はSNSやネット調査を素行調査の中心とはしていないと説明していました。オンライン情報が必要な場合は、対応範囲と方法を別に相談します。

被害が続くおそれがあるなら、追加の観察を待つだけではなく、出庫承認や在庫管理を適切に見直す必要があります。ただし、対象者だけに不自然な条件を付けるなどの対応は慎重に判断します。弁護士と事実確認の順序を決め、商品管理の改善と個人への対応を混同しないことが大切です。

15.休職・傷病手当金・副業の疑いは、行動だけで判断しない

外出できることと、元の仕事ができることは違う

休職している社員が買物へ出かけた、車を運転した、知人と会っていた。これらの行動が確認されても、直ちに「働けるのに休んでいる」とは判断できません。仕事の負荷や内容と、短時間の日常生活の動作は異なり、療養の一環として外出する場合もあります。

協会けんぽは、傷病手当金の労務不能の判断について、医師の意見や従事する業務の内容などを考慮すると説明しています。したがって、会社が外見だけで病状や就労可能性を評価することは避ける必要があります。調査で確認できるのは行動であり、医学的な評価そのものではありません。

参考:全国健康保険協会「傷病手当金のよくあるご質問」

傷病手当金と労災の給付を混同しない

取材には、休業中の行動について複数の話が含まれています。しかし、健康保険の傷病手当金と、業務上や通勤の傷病に関する労災保険の給付は制度が異なります。会社が「休んでいる人への手当」とひとまとめにすると、確認する窓口や必要資料を誤る可能性があります。

相談時には、休職の理由、どの制度が関係しているか、会社がどの申請や証明に関わったかを整理してください。給付の要否や返還の判断を、会社や調査会社が報告書だけで確定するものではありません。必要に応じて保険者等の所定の窓口へ確認するため、事実と資料を分けて準備します。

別の場所で働いているように見えても、確認事項が残る

別の店舗へ通っている姿が確認されたとしても、その人が雇用されているのか、短時間の手伝いなのか、報酬があるのかは分からない場合があります。施設へ入った場面を「勤務していた」と言い換える前に、記録がどこまで示しているかを確認してください。

仮に別の就労が確認されたとしても、現在の仕事に就けるか、休職制度や給付との関係がどうなるかは、別に検討が必要です。会社が保有する診断書、適用される制度、本人の説明などを専門家と確認します。センシティブな健康情報は、検討に必要な担当者へ共有を限定することも重要です。

副業そのものと、会社が問題にする行為を分ける

厚生労働省は副業・兼業のガイドライン等を公表しています。副業をしているという事実だけで、一律に不正と扱うべきではありません。問題となり得るのが、勤務時間中の別の仕事なのか、秘密の持出しなのか、競業や健康管理の問題なのかを整理する必要があります。

参考:厚生労働省「副業・兼業」

会社の制度や契約を確認せずに行動だけを見ても、判断の基準が定まりません。外出・副業・労務不能・制度上の不正は、それぞれ別の論点です。 調査は、そのうち外部から確認できる事実を補うものと位置付けてください。

16.調査会社を選ぶときの七つの確認点

届出や契約主体を確認できる

誰と契約し、どの事業者が調査し、誰が報告書を作るのかを確認します。ウェブサイトの名称、見積書の社名、契約書の相手が異なる場合には、関係を説明してもらってください。外部の調査員や委託先を利用する場合の情報管理も、契約前の確認事項です。

届出番号や標識を確認することは出発点ですが、それだけで成果や適法性のすべてが保証されるわけではありません。番号があることを強調し、実際の方法や契約条件の質問に答えない事業者には注意が必要です。対象地域や担当窓口も含め、依頼後に連絡できる相手を明確にします。

目的を聞き、調査しない選択肢も説明する

良い相談では、会社が何を確認したいかだけでなく、その事実を何に使いたいかが問われます。手元の資料で足りる可能性や、行動調査では答えが出ない可能性も説明してもらえるかを見てください。最初の相談から一律に長い契約へ誘導される場合は、根拠を確認しましょう。

取材先の方針は、弁護士が必要とする事実や依頼者の目的から、実施する部分を絞るというものでした。この考え方を選定の基準にするなら、「今回、最初に何を確認すればよいか」「それが分かったら終了できるか」を尋ねると、提案の具体性を比べやすくなります。

違法な方法を断り、確認できないことを説明する

「必ず内部情報が取れる」「本人に知られず、どんな情報でも調べる」といった説明より、できないことの説明があるかを確かめます。私有地への立入り、私用アカウントへのアクセス、位置情報の扱いなど、依頼者側も不適切な要求をしないことが前提です。

また、調査結果が出ない可能性や、確認できない時間帯をどのように報告するかも重要です。対象者の行動には変動があり、見える範囲にも限界があります。結果を保証する言葉よりも、条件と限界を具体的に説明できるかが、契約後の納得感につながります。

見積もりと追加承認のルールが明確である

金額が分かりやすいかだけでなく、追加が必要なときの説明方法も確認します。電話口で急に判断を求められる可能性があるなら、誰が承認し、どの情報を聞いて決めるかを決めておきます。社内決裁に時間が必要な会社は、その事情も先に共有してください。

見積書の条件を変えて比較するときには、変更後に何が確認できなくなるかも説明してもらいます。安くなった理由が、必要な記録や報告書の省略であれば、目的に合わないかもしれません。価格の比較は、同じ目的と成果物のもとで行うことが基本です。

報告書、情報管理、専門家への共有を確認する

残る三つは、報告書の形式、情報管理、専門家への共有です。報告書については、時系列、写真との対応、不明点の記載を確認します。情報管理については、送付方法、閲覧者、保管期間、終了後の取扱いを確認します。弁護士への共有については、依頼者の同意や共有範囲を含めて整理します。

調査会社が事実を説明することと、法律上の結論や交渉を担当することは違います。連携があるという説明を受けた場合でも、誰がどの業務を担い、別の契約や費用があるのかを確認してください。「全部任せられる」という一言を、具体的な役割と成果物に置き換えることが必要です。

17.報告後の対応|本人への確認と、人事・法的判断を分ける

最初に、分かったことと残ったことを整理する

報告書を受け取った直後は、疑いが裏付けられたと感じて気持ちが強く動くことがあります。それでも、会社が最初にするべきなのは、問題ごとに事実を並べることです。どの資料のどこが一致し、どこが違い、何が未確認なのかを整理してください。

例えば「勤務報告の訪問先と行動記録が一致しない」ことは確認できても、「訪問の必要がなくなり、上司へ口頭で連絡した」という説明の有無は、別に確認する必要があります。報告書で埋まった部分と、本人や管理者への質問で確かめる部分を分けます。

本人への質問は、事実と説明を残す形で行う

本人に説明を求める場合は、いつの、どの資料に関する質問なのかを具体的にします。「嘘を認めろ」という聞き方では、事実の確認より対立が強くなり、説明の記録も残しにくくなります。面談の参加者、質問事項、記録方法は、案件に応じて弁護士と準備してください。

説明の機会を設けた結果、新しい資料や事情が出ることもあります。その情報が不正の疑いを弱めるものであっても、同じように検討します。調査会社の記録と本人の説明が異なるなら、どちらかを直ちに排除せず、日時や対象者の識別、資料の意味を改めて確認します。

解雇や懲戒は、報告書があれば自動的にできるものではない

厚生労働省の説明でも、解雇や懲戒には合理性や相当性が問題となることが示されています。不適切な行動が確認された場合であっても、適用される就業規則、行為の内容や程度、従来の対応、本人の説明など、個別の事情を踏まえた検討が必要です。

参考:厚生労働省「労働契約の終了」

調査会社に依頼するのは、事実確認や記録の整理です。懲戒の可否や損害賠償の方針、相手との法的な交渉、訴訟などは、弁護士の関与が必要となる領域として分けて考えます。「報告書があるので解雇できる」という説明を、そのまま実行の根拠にしないでください。

退職や返金を迫るために、私生活の情報を使わない

調査結果があっても、「辞めなければ家族や取引先に知らせる」といった圧力をかけることは避けるべきです。退職に関する話合いをする場合も、本人の意思や手続への配慮が必要です。取材で退任や退職を見据えた相談が紹介されていても、調査がそれらの結果を保証するものではありません。

同じく、会社が疑う損害額を給与から独断で差し引くなど、調査後に別の問題を起こさないようにしてください。会社の損失、本人の責任、請求方法、実際の回収可能性は分けて検討します。目的は会社の問題を適切に解決することであり、相手を追い込むことではありません。

調査会社・弁護士・企業の役割分担
図4 事実の記録、法的な検討、会社の判断を分担する。

18.情報管理と再発防止|調査終了後も記録を適切に扱う

共有する人、使う目的、保管先を限定する

報告書には、対象者だけでなく、たまたま一緒にいた人や周辺の情報が含まれる可能性があります。経営者が知っているからといって、管理職全員へ配布する必要があるとは限りません。判断に必要な担当者と目的を決め、共有履歴が追える方法を使います。

弁護士や外部の専門家へ渡す場合も、誰へ何を渡したかを記録します。共有先のアドレスやアクセス権を確認し、公開リンクや私用のチャットへ置くことを避けてください。報告書の全体版と、社内の検討用に必要箇所を整理した資料は、どちらが原資料なのかを区別します。

保管期間は一律に決めず、必要性を確認する

調査が終わればすぐにすべて消せばよいとも、何年でも残せばよいとも限りません。社内手続、紛争の見込み、説明責任などを考慮し、必要な期間と保管方法を決めます。係争や手続が想定される資料を、通常の整理のつもりで削除しないようにしてください。

一方、目的に関係しない情報を漫然と保管することも避けます。どの資料を保全し、どの複製を整理するかを分けて検討します。調査会社側に残るデータの扱いについても、契約時の条件を確認し、会社側の想定と一致しているかを確かめることが大切です。

個人の問題と、管理の抜けを分けて改善する

勤務報告の不一致があったなら、報告の様式や承認の仕組みが曖昧ではなかったかを確認します。在庫の持出しが問題なら、出庫の承認、搬出先の確認、棚卸しの間隔などを見直します。個人への対応だけで終えると、同じ条件で別の問題が繰り返される可能性があります。

ただし、再発防止の名目で全員の私生活を広く監視することは適切ではありません。まず業務の記録と承認の仕組みを整え、必要な情報で管理できるようにします。調査の学びは、監視を増やすことより、説明できる業務運用に生かすという視点が重要です。

19.調査でよくある失敗と、依頼前の最終チェック

調査の目的を「辞めさせること」だけにしてしまう

結論を固定すると、本人に有利な資料を見落としたり、確認された行動を過大に評価したりしやすくなります。会社として何が問題で、どの事実がまだ分からないかへ戻ってください。必要な事実が集まった結果、指導や制度改善が適切だと分かることもあります。

また、調査会社へ法的な結論まで求めると、役割が曖昧になります。事実を集める担当、法的に評価する担当、社内で意思決定する人を分け、どの段階で誰の確認を受けるかを明確にしてください。調査の依頼者自身にも、記録を公平に読む姿勢が必要です。

一度の調査結果を、普段の行動全体へ広げてしまう

特定の日の記録は、その日の判断材料です。普段も同じだったと推測するなら、その推測と記録を区別します。追加で確認する必要がある場合でも、単に日数を増やすのではなく、何を補えば判断できるのかを先に整理してください。

逆に、一度見られなかったから無意味だと考えるのも早計です。確認できなかった理由が、予定変更なのか、調査範囲外だったのか、そもそも疑問の立て方が違ったのかを見直します。調査結果は、次の手段を決めるためにも使うものであり、不正の有無だけの二択ではありません。

準備不足のまま、費用と情報の管理を曖昧にする

追加費用の承認者がいない、社内の複数人が指示を出す、報告書を私用メールで転送する。こうした運用の不備は、調査そのものとは別のトラブルにつながります。実施の前に、窓口、予算上限、連絡方法、保管先を決めておくことが必要です。

依頼直前には、次の項目を確認してください。すべてが完全に埋まっていなければ相談できないという意味ではありません。分からない項目を、契約前の質問として持っていくための一覧です。

  • 会社として確認したい問題を、具体的な事実の形で説明できるか。
  • 確認済みの事実と、伝聞・推測を区別しているか。
  • 社内資料だけで確認できることを先に調べたか。
  • 対象者の権限、勤務制度、承認済みの予定を把握したか。
  • 依頼する権限と社内の決裁者を確認したか。
  • 対象、期間、方法を必要な範囲へ絞ったか。
  • 見積もりの総額と、延長・中止・解約の条件を確認したか。
  • 確認できなかった部分の報告方法を確認したか。
  • 報告書、元データ、共有方法について合意したか。
  • 調査後に誰が法的・人事的な判断を担うかを決めたか。

相談メモの組み立て方を、二つの架空例で確認する

一つ目は、営業担当の勤務実態に疑問がある場合です。「仕事をしていないようだ」という相談を、そのまま依頼内容にするのではなく、訪問報告が提出された日、担当顧客、報告の形式、承認された予定を整理します。次に、会社がすでに確認できる資料から、どこに不一致があるかを具体化します。

例えば、訪問報告はあるものの面談記録がないという場合、面談がなかったのか、記録だけが漏れたのかはまだ分かりません。オンラインへ変更された可能性や、別の担当者が同席した可能性もあります。社内資料で確認できる空白を先に埋め、それでも外部での行動確認が必要なのかを相談します。

このとき、調査会社へ渡す問いは「怠けている証拠を取れるか」ではなく、「特定日の報告内容と、その時間帯に確認できる行動を照合したい」です。回答として必要なのは、会社に都合のよい写真ではありません。確認できた行動と時刻、確認できなかった部分が分かる記録です。これなら、結果が当初の想定と違っても相談の目的を保てます。

二つ目は、商品の所在が不明な場合です。まず、会社が不明としている数量と、帳簿上の数量を区別します。現物を数えた日、出庫が記録された日、請求や納品の処理が行われた日が違えば、単に比較の基準日がそろっていない可能性があります。調査の前に、どの日の在庫を比較しているのかを確認します。

そのうえで、特定の出庫について搬出先が分からないなら、確認対象をその移動に絞れるかを相談します。荷物の識別が難しい場合は、外部の観察だけで同一商品と言えるのかも質問します。「自宅へ運んだ」という事実が取れたとしても、承認の有無やその後の納品を確かめる作業は残ることを、最初から共有しておきます。

二つの例に共通するのは、会社の疑いをそのまま調査の結論にしないことです。疑問を具体的な確認事項へ変え、社内資料と外部の記録がどうつながるかを考えます。これにより、何が分かれば終了できるか、どこから先は別の専門家の判断になるかを説明しやすくなります。

相談した後に、会社の前提が違っていたと分かった場合は、すぐに共有してください。予定の変更が承認されていた、商品が別倉庫へ届いていたなどの事情が判明したのに、当初の疑いのまま調査を続ける必要はありません。調査の必要性は、契約した時点だけでなく、新しい事実が出たときにも見直します。

20.素行調査を相談するときは、確認したい事実から伝える

素行調査は、社員や役員の人柄を一括で評価するものではありません。会社が把握していない行動を、必要な範囲で確認し、判断の材料へ整理する手段です。調査の範囲が適切で、記録と社内資料の関係が説明できてこそ、その後の対応へつなげられます。

取材で大切にされていたのは、調査会社の都合で作業を増やすのではなく、依頼者や弁護士が必要とする事実に合わせて実施する考え方でした。多くの情報を集めるより、どの事実があれば次の判断ができるかを定めることが、費用や時間の使い方にも関わります。

相談時には、「不正かどうか決めてほしい」だけではなく、「この報告とこの資料の違いを確認したい」「商品の搬出先が分からない」と伝えてください。確証がない段階でも、いつ何が起き、何が分かっていないかを整理すれば、行動調査が必要かどうかを検討しやすくなります。

光武商事では、法人の勤務実態や社内不正などに関する事実確認と、記録の整理について相談を受けています。本人へ追及する前に、現在把握している事実、既存資料、対応期限を整理してご相談ください。法的な判断や交渉については、弁護士と役割を分けて進めます。

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素行調査について相談する

素行調査のよくある質問

素行調査は、確証がない段階でも相談できますか?

相談できます。確認済みの事実、他者から聞いた話、推測を分け、会社として何を確認したいかを伝えてください。相談の結果、行動調査より先に社内資料の確認が必要と分かる場合もあります。

素行調査を依頼すれば、必ず不正が見つかりますか?

必ず見つかるものではありません。確認できる範囲は調査日時、対象者の行動、適法に観察できる条件などに左右されます。不正が確認できなかったことと、すべての期間に不正がないことも区別してください。

素行調査の費用は、どう比較すればよいですか?

同じ目的、対象時間、人数、成果物を前提に、税込総額を比較します。最低稼働時間、待機、移動費、延長、報告書、中途解約などの条件も確認し、目立つ時間単価だけで判断しないことが大切です。

調査から報告書の受取りまでは、何日かかりますか?

実働日数と、相談から納品までの日数は異なります。特定の曜日だけを確認する場合は、実働が数日でも一か月以上かかることがあります。準備、実施、報告書作成、社内での検討時間を分けて予定を確認してください。

社員が休職中に外出していたら、不正受給の証拠になりますか?

外出だけでは判断できません。元の業務ができるか、医師の意見や制度上の条件がどうなっているかは別に確認が必要です。健康保険の傷病手当金と労災保険の給付も区別し、必要に応じて所定の窓口や専門家へ確認します。

探偵業の届出があれば、GPSや私用アカウントの調査も自由にできますか?

自由にできるわけではありません。届出があっても、他の法令で禁止・制限される行為が認められるものではありません。具体的な調査手段と必要性、権限を確認し、不正アクセスや無断侵入などを依頼しないでください。

調査報告書があれば、社員をすぐに解雇できますか?

報告書だけで自動的に解雇できるわけではありません。就業規則、確認された行為、本人の説明などを踏まえた個別の検討が必要です。役員についても社員とは立場や手続が異なるため、法的な判断は弁護士へ確認してください。

最初の相談には、何を用意すればよいですか?

問題の経緯、確認したい点、日時、関係する社内資料、本人へすでに確認した内容をまとめます。併せて予算の考え方と対応期限を伝えてください。不要な私生活の情報や、権限なく取得した情報を集める必要はありません。

光武 眞依

光武 眞依

光武商事株式会社は、探偵事務所で7年の現場経験を積み、数百件の企業案件に対応してきた代表が、法人リスクに特化した調査・研修を提供するために設立しました。

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