1年間の社内不正相談トレンドから見る2026年下半期の傾向
※本記事のデータは、当社が2025年7月から2026年6月に受け付けた法人からのご相談の傾向をまとめたものです。個人が特定される情報は含んでいません。件数ではなく構成比としてご覧ください。
社内の不正は、起きてから対応することが多いものですが、どのような不正が、どの業種で増えているかを知っておくと、予防の優先順位を決めやすくなります。
本記事では、1年間のご相談の傾向、増えた類型、業種ごとの特徴、2026年下半期に想定される動き、企業にお伝えしたいことの5つに分けて整理します。
個別事案での不正の成否や、処分・請求の可否は、事実関係と証拠によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
1年間の相談傾向データ

2025年7月から2026年6月のご相談を集計しました。ご相談の件数は前年の同じ時期と比べて約18%増えています。不正そのものが増えたというより、外部に相談するという選択をとる企業が増えたものと見ています。
相談類型別の構成比
| 相談の類型 | 構成比 | 前年比 | 主なご相談の内容 |
|---|---|---|---|
| 横領・経費の不正 | 28% | +5pt | 経理担当者による現金の着服・架空の経費・キックバック |
| 情報の持ち出し | 24% | +8pt | 退職者による顧客リストの持ち出し・競合での利用の疑い |
| 勤怠・勤務実態 | 19% | +2pt | 直行直帰の虚偽の申告・タイムカードの改ざん |
| 競業行為・副業 | 12% | +3pt | 在職中の競業・許可のない副業・退職後の顧客の引き抜き |
| ハラスメント関連 | 9% | ±0 | 事実確認のための行動調査・記録の確認 |
| 役員・経営幹部の不正 | 5% | +2pt | 特別背任の疑い・利益相反の取引・架空の発注 |
| 加盟店・多店舗の管理 | 3% | +1pt | 売上の隠蔽・レジの処理・覆面調査のご依頼 |
最も増えたのは、情報の持ち出しに関するご相談です。働き方の変化とクラウドの利用が広がり、持ち出しの経路が増えたこと、転職や副業が一般的になったことが背景にあると見ています。
相談が持ち込まれる段階
| ご相談の段階 | 構成比 | 特徴 |
|---|---|---|
| 疑いがある。まず確認したい | 42% | 証拠がなく、社内では動けない。相談が初めてという企業が最も多い |
| 発覚している。記録を固めたい | 35% | 社内での調査が行き詰まり、外部に相談する |
| 処分や手続きを進めたい | 15% | 報告書の内容や、弁護士との進め方の相談 |
| 予防の体制を整えたい | 8% | 規程の整備やリスクの確認 |
証拠がないと相談できないと感じている企業は多いのですが、実際には4割以上が、疑いがある段階でのご相談です。早い段階でご相談いただくほど、記録が残っているうちに確認を進められます。
関連記事:社内不正対応の完全ガイド|発見から解決までの全知識【保存版】
増加した相談類型
前年と比べて増え方が大きかった3つの類型について、背景と具体的なパターンを整理します。
① 情報漏洩・退職者による持ち出し(+8pt)
最も増えた類型です。退職した社員が競合他社に移ったあとに顧客が減り始めた、転職先の競合が自社の内情を知っているような提案をしてきた、といったご相談が典型です。
- 転職や副業が一般的になり、退職前のデータの持ち出しを問題だと感じていない人が増えている
- クラウドの普及により、個人のアカウントへのアップロードなど、会社の記録では把握しにくい経路が増えている
- 在宅勤務の時期に整えられなかった情報管理のルールが、そのまま残っている
情報の持ち出しのご相談では、退職時に秘密保持の誓約書を交わしていなかったケースが多くあります。誓約書がない場合でも、不正競争防止法による対応を検討できることがありますが、その前提として、情報が秘密として管理されていたかなどが問われます。誓約書があれば、説明しやすくなります。
関連記事:退職時の誓約書に書かせるべき条項とは?競業避止・秘密保持の実務ポイント
② 横領・経費不正(+5pt)
横領のご相談で増えたのは、少額を長期間続けるものと、電子化された手続きの中で行われるものの2つです。
- 少額を続けるもの:月に数万円程度の着服が数年続くケース。単月では見過ごされやすく、積み重なると大きな金額になる
- 電子化された手続きの中でのもの:承認の流れの抜けを使った架空の経費や、記録の書き換え
- 担当者の交代で見つかるもの:退職・異動・休職で担当者が替わったときに、前任者の処理の問題が見つかるケース
関連記事:横領チェックリスト50項目|自社のリスクを今すぐ診断
③ 競業行為・副業(+3pt)
副業が広がるなかで、黙認していた副業が競合他社での仕事だった、副業として始めた事業に顧客を移していた、といったご相談が増えています。なお、副業そのものは本来自由とされており、問題になるのは、許可を得ていない場合や、勤務に支障が出ている場合などです。
- 許可制にしている企業では、申請をしないまま始めている、申請の内容が実際と違うといった形で問題になる
- 退職の前に同じ業種で個人として事業を始め、顧客を移していくケース
- 競合他社が、情報を得る目的で自社の社員を副業として雇うケース
関連記事:社員の無許可副業を発見したらどうする?就業規則上の対応と調査のポイント
業種別の特徴
ご相談の業種と、業種ごとに多いパターンを整理します。業種によって、起きやすい不正の形が異なります。

| 業種 | 相談の割合 | 多い類型 | 業種ごとのパターン |
|---|---|---|---|
| 製造・メーカー | 22% | 情報の持ち出し(技術情報)・購買に関する不正 | 技術者の転職にともなう設計情報の持ち出し・仕入先とのキックバック |
| IT・ソフトウェア | 18% | 情報の持ち出し(顧客データ・ソースコード) | 退職時のソースコードの持ち出し・競合への転職 |
| 飲食・小売・加盟店 | 15% | 現金の着服・売上の隠蔽 | レジの処理・釣り銭の着服・加盟店の報告の書き換え |
| 建設・不動産 | 14% | 材料費や外注費に関する不正 | 材料費の水増しの発注・下請けからのキックバック |
| 医療・介護 | 10% | 勤怠の不正・備品の持ち出し | タイムカードの改ざん・患者情報の持ち出し・消耗品の横流し |
| 人材・コンサルティング | 9% | 顧客の引き抜き・競業行為 | 担当者が顧客ごと転職する・顧客情報の持ち出し |
| その他(物流・金融など) | 12% | 業種ごとの類型 | 物流では配送品の持ち出し、金融では顧客情報の取り扱いなど |
製造業とIT業で、ご相談全体の4割を占めます。どちらも、技術情報や顧客データという重要な情報を持ち、人の出入りが多い業種です。情報の管理が共通の課題になっています。
下半期の予測
1年間の傾向と社会の動きを踏まえ、2026年下半期に増えると考えられる動きを4点にまとめます。あくまで当社のご相談をもとにした見立てです。
予測1:退職者による情報持ち出しの高止まり
転職や副業が広がる状況は続くと見られるため、退職者による情報の持ち出しのご相談は、同じ水準か、さらに増えると考えています。AIやデータを扱う企業への転職にともない、顧客データや学習用のデータが持ち出されるケースも出てきています。
予測2:AIツール経由の情報漏洩リスクの顕在化
生成AIに社内の情報を入力してしまう形の漏洩は、持ち出しの意図がないまま起こります。下半期は、社内でのAIの利用ルールの整備についてのご相談が増えると考えています。
予測3:役員・経営幹部不正の相談増
内部統制を強める動きのなかで、役員や経営幹部の不正について、株主や監査役、ほかの取締役から動きが出るケースが増えると考えています。資金調達やM&Aの場面では、利益相反の取引が問題になりやすい時期です。
予測4:採用段階での確認のニーズ
入社後の対応にかかる負担を踏まえ、採用のときに経歴や前職での状況を確認したいというご相談が増えると考えています。
自社の状況に合わせて、どこから手をつけるかを整理したい場合は、ご相談ください。
企業への提言
1年間の傾向と下半期の見立てを踏まえ、優先して取り組みたいことを4点にまとめます。
提言1:退職プロセスの標準化を今すぐ実施する
情報の持ち出しのご相談で多いのは、退職の手続きが決まっていないことです。退職の申し出があった時点での記録の確認、退職日の機器の返却と権限の変更、退職時の誓約書という3つを標準の手順にしておくことが、負担の少ない予防になります。
- やること:退職時の確認項目をまとめる(機器の返却・権限の停止・誓約書)
- 優先度:高(情報を扱う職種、営業の職種では早めに)
提言2:AIツールの情報セキュリティポリシーを整備する
社内の情報をAIに入力してよいかのルールが決まっていないと、意図しない形で情報が外に出ることがあります。生成AIの利用のルールを、情報管理の規程や研修に反映しておくことをおすすめします。
- やること:生成AIの業務での使い方のルールを決め、周知する
- 優先度:高(IT・製造・人材の業種では特に)
提言3:横領リスクのセルフ診断を定期化する
横領のご相談の背景には、管理の形が残っていても確認が働いていない状態があります。年に1回、各部門の責任者がチェックリストで自部門を確認する仕組みにすると、抜けを定期的に見直せます。
- やること:横領チェックリストを、経営会議や内部監査の項目に入れる
- 優先度:中〜高(経理・調達・在庫の部門から)
関連記事:横領チェックリスト50項目|自社のリスクを今すぐ診断
提言4:「疑いがある段階」での早期相談を組織として許容する
疑いの段階でご相談いただくと、記録が残っているうちに確認を進められ、とれる対応の幅も広がります。証拠がないと相談できないという思い込みを解き、早めに相談してよいという方針を、経営者や管理職から示してください。
まとめ
1年間のご相談から見えてきたのは、情報の持ち出しが増えていることと、早い段階でのご相談が対応の幅を広げるという2点です。
- ご相談の件数は前年比で約18%増。情報の持ち出しの増え方が最も大きい(+8pt)
- ご相談の42%は、疑いがある段階。早い段階ほど記録が残っているうちに確認できる
- 業種別では製造とITで全体の4割。技術情報と顧客データの管理が共通の課題
- 下半期に想定される動き:退職者による持ち出しの高止まり、AIを介した漏洩、役員の不正、採用時の確認のニーズ
- 取り組む順番:退職の手続きの標準化→AIの利用ルール→横領リスクの定期的な確認→早めの相談
自社の状況に照らしたリスクの整理や、対策の優先順位については、個別にご相談いただけます。
関連記事:社内不正対応の完全ガイド|発見から解決までの全知識【保存版】
よくある質問(FAQ)
このレポートのデータはどのように集計されていますか?
当社が2025年7月から2026年6月に受け付けた、法人からのご相談の内容を集計しています。個人が特定される情報は含んでいません。
業種・相談の類型・ご相談の段階といった項目をまとめたもので、件数ではなく構成比としてご覧ください。
自社の業種に合わせたリスクの整理を相談できますか?
ご相談いただけます。業種・規模・現在の管理の状況をお聞きしたうえで、確認しておきたい点と、取り組む順番をご提案します。
来年のトレンドのまとめは公開されますか?
次回のまとめも、同じように1年間のご相談をもとに公開を予定しています。公開の時期が決まりましたら、サイトでお知らせします。
