お中元・接待シーズンの贈収賄リスク|社内ルールの作り方
「取引先からお中元が届いたが、受け取ってよいのか担当者が判断できず困っている」
「接待費の承認の基準があいまいで、担当者によって対応がばらばらになっている」
「海外の取引先との接待で、問題にならないかを確認したい」
お中元やお歳暮、接待は商慣習として続いてきましたが、近年は国内の法令だけでなく、海外の取引に関わる規制への対応も求められる場面が増えています。とくに贈答が集中する時期は、ルールがあいまいなままだと、判断が担当者任せになりがちです。
本記事では、贈答や接待で問題になり得る場面、相手が公務員か民間かによる違い、社内ルールの作り方、記録と承認の進め方、違反が疑われたときの対応を整理します。
個別事案で、どこまでが問題になるかは、相手の立場・目的・金額などによって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
贈答・接待の法的リスク
贈答や接待が問題になるかどうかは、誰が誰に、何のために、どの程度の金額で行ったかによって判断されます。お礼のつもりでも、職務に関わる利益の提供と受け取られることがあります。
問題になる4つのパターン

| パターン | 具体的な状況 | 問題になり得る法律など |
|---|---|---|
| 公務員への贈答・接待 | 公務員や、みなし公務員(独立行政法人・国立大学法人の職員など)への金品の提供や接待 | 刑法198条の贈賄罪(職務に関する利益の提供と認められた場合)。相手側は刑法197条の収賄罪 |
| 外国公務員への贈答 | 海外の政府機関や国有企業の職員への金品の提供 | 不正競争防止法で禁じられており、日本の法律で処罰され得る |
| 取引先の担当者へのキックバック | 取引を続ける見返りとしての金品の提供や接待 | 相手方の会社に対する背任などの問題。取締役などが相手の場合は会社法の規定も関わる |
| 自社の担当者の受領 | 取引先から自社の担当者が個人的に金品や接待を受ける | 就業規則違反。取引の条件がゆがめられた場合は、会社に対する背任などが問題になり得る |
季節のあいさつとして一般的な範囲の贈答は、通常は問題になりません。問題になるのは、特定の職務に対する見返りとして行われる場合や、職務と関わりがあり、金額が相当な範囲を超える場合です。
官民での規制の違い
贈答や接待の扱いは、相手が公務員か民間かによって大きく変わります。とくに、みなし公務員の範囲は広いため、相手の立場を確認しておく必要があります。
公務員・みなし公務員への規制
刑法上の公務員には、国家公務員・地方公務員のほか、法律でみなし公務員とされる人が含まれます。民間企業の社員のように見えても、みなし公務員にあたる場合があります。
| 区分 | 主な対象 | 注意点 |
|---|---|---|
| 国家公務員・地方公務員 | 中央省庁・都道府県・市区町村の職員、警察官など | 職務に関する利益の提供が問題になる |
| みなし公務員 | 独立行政法人や国立大学法人の職員など、個別の法律でみなし公務員とされている人 | 民間企業と見分けがつきにくい。取引の前に相手先の法人の性質を確認する |
| 外国公務員 | 外国の政府機関・国有企業・公的機関の職員 | 不正競争防止法により、日本の法律で処罰され得る |
| 民間企業の担当者 | 上記以外の企業や団体の従業員 | 贈賄罪の対象ではないが、就業規則や、背任などの問題になり得る |
民間企業間の贈答・接待の基準
民間企業の間では、法律による制限は限られますが、各社のルールや業界の自主的な基準に沿う必要があります。
- 取引先が贈答や接待の受け取りを禁じている場合、送ること自体が相手のルールに反する結果になる
- 一定額を超える贈答品は、受け取ったあとに会社へ届け出る決まりを設けている企業もある
- 業界によっては、自主的な基準(公正競争規約など)が定められている
外国公務員への贈答
日本企業が海外で事業を行う際、相手国の公務員や国有企業の職員への金品の提供は、不正競争防止法で禁じられています。罰則は改正で引き上げられており、法人にも重い罰金が定められています。
- 現地の慣習であっても、日本の法律が適用されることがある
- 海外の子会社や現地の代理店の行為について、親会社の管理の姿勢が問われることがある
- 米国や英国など、相手国の法律が適用される場合もある
みなし公務員への贈答は、少額であれば問題ないと判断されるとは限りません。職務に関わる性質があるかどうかで判断されるため、独立行政法人や国立大学法人との取引がある場合は、社内で相談してから対応してください。
社内ルールの設計
贈答や接待のルールは、何がよくて何がだめかという基準と、誰がどう承認するかという手順の2つで作ります。あいまいなまま運用することが、いちばんのリスクです。
ルール設計の5つの基本要素

| 要素 | 決めること | 作るときのポイント |
|---|---|---|
| 相手の区分 | 公務員・みなし公務員・外国公務員・民間企業の区分を書き分ける | 区分ごとに基準を変える。公務員への贈答は原則行わないという形にしておく |
| 金額の基準 | 送る場合と受け取る場合の上限を決める(例:一定額以下は届出不要、それを超える場合は届出と承認、さらに高額は原則不可) | 社会通念上相当な範囲という書き方だけでは判断できない。金額を示す |
| 禁止することの明示 | 現金や商品券の授受、高額な品物、職務に直接関わる接待などを禁止として挙げる | だめな例をリストにしておくと、現場が迷わない |
| 届出と承認の手順 | 誰に、何を、いつまでに届け出るか。誰が承認するかを決める | 窓口は1か所にまとめる |
| 違反したときの扱い | 就業規則の懲戒の事由として定めておく | 懲戒処分には、就業規則の定めと周知が前提とされている。届出をしなかった場合の扱いも決めておく |
金額基準の参考例
以下は考え方の一例です。業種や取引先のルールによって変わるため、自社の状況に合わせて決めてください。
| 相手の区分 | 少額(目安5,000円以下) | 中額(目安5,001〜1万円) | 高額(目安1万円超) |
|---|---|---|---|
| 公務員・みなし公務員 | 原則として行わない | 行わない | 行わない |
| 民間企業の担当者(国内) | 届出は不要(季節のあいさつの範囲) | 事前の届出と上長の承認 | 原則として行わない。例外は役員の承認 |
| 外国公務員・外国の国有企業の職員 | 原則として行わない | 行わない | 行わない |
| 民間企業の担当者(海外) | 届出は不要 | 事前の届出と上長の承認 | 法務やコンプライアンスの部門に確認する |
送る側だけでなく、受け取る側の基準も決めておいてください。自社の担当者が取引先から受け取る場合の基準、届出の手順、返却の扱いが決まっていないと、取引の条件がゆがむ原因になります。
記録と承認フロー
ルールを作っても、手続きが煩雑だと届出が行われなくなります。簡単に記録でき、記録が確実に残る形にしておくことが大切です。
贈答品・接待の記録に含めるべき情報
- 日時(贈答品を送った日、接待を行った日)
- 相手先(会社名・役職・氏名)と、相手が公務員やみなし公務員にあたらないかの確認
- 内容(品名、接待の場所、参加者)
- 金額(概算でも記録する)
- 目的と業務との関係(打ち合わせ後の会食など)
- 承認した人と、届け出た日時
承認フローの設計
| 区分 | 承認の流れ | 記録の方法 |
|---|---|---|
| 届出が不要な範囲 | 実施後に経費の精算で記録する | 経費精算のシステムの交際費の欄に記録する |
| 事前の届出と上長の承認が必要な範囲 | 担当者から上長、コンプライアンスまたは経理の担当へ | 申請の様式に記録し、保存する |
| 役員の判断が必要な範囲 | 担当者から上長、コンプライアンス部門、役員へ | 稟議または承認のシステムに記録を残す |
| 行わないと決めている範囲 | 取引先から申し出があった場合も届け出る | 断った記録を残す。受け取ってしまった場合はすぐに上長へ報告する |
断った記録を残しておくことも大切です。過大な贈答や接待を受けたときに、断った、受け取ったが返したという記録がないと、あとから確認する際に説明がしにくくなります。
社内の贈答や接待のルールの見直しについて、進め方を整理したい場合はご相談ください。
違反発覚時の対応
社内のルールへの違反や、キックバックの疑いが生じた場合は、記録の保全と順序が大切です。
社内ルール違反(キックバック疑い)の対応フロー

| 段階 | 行うこと | 注意すること |
|---|---|---|
| STEP 1 記録の保全 | 経費の精算の記録、承認の履歴、メール、ログをすぐに保全する | 当事者に接触する前に行う。記録が書き換えられることを防ぐ |
| STEP 2 事実の確認 | 関係者への聞き取りを、周囲から当事者の順で行う | 2名以上で対応し、記録を残す。長時間や威圧的な聞き取りは避ける |
| STEP 3 法的な評価 | 弁護士に状況を伝え、どのような問題になり得るか、どう進めるかを確認する | 公務員が関わる場合は、対外的な対応も含めて相談する |
| STEP 4 処分と対外対応 | 就業規則にもとづく処分の検討、必要に応じて取引先への連絡 | 上場企業の場合は、開示や監査法人への報告が必要になることがある |
贈収賄が疑われる場合の外部対応
自社の社員が公務員への金品の提供を行っていたことがわかった場合の対応は、事案によって変わります。公表や当局への報告の要否、タイミングを含めて、弁護士と相談しながら決めてください。
- 海外での事案では、相手国と日本の双方への対応が必要になることがある
- 社内で確認した内容は、弁護士や監査法人と共有し、対外的な説明の内容をそろえる
- 取引先の担当者がキックバックを受けていた場合、自社が知りながら放置していたと受け取られると、自社の責任も問われ得る。疑いを把握した時点で弁護士に相談する
まとめ
贈答が集中する時期は、普段は気にとめないルールのあいまいさが表に出やすい時期です。その時期だけの対応ではなく、通年で使えるルールと承認の手順を整えておくことが、結果的に手間を減らします。
- 問題になり得る4つのパターン:公務員への贈答・外国公務員への贈答・取引先担当者へのキックバック・自社担当者の受領
- 公務員やみなし公務員(独立行政法人・国立大学法人など)への贈答は、金額にかかわらず慎重に判断する
- 社内ルールの5つの要素:相手の区分・金額の基準・禁止すること・届出と承認の手順・違反したときの扱い
- 記録:承認の記録だけでなく、断った記録も残しておく
- 違反が疑われたとき:記録の保全→事実の確認→弁護士への相談→処分と対外対応の順で進める
自社のルールを確認し、あいまいな部分があれば、贈答の時期の前に見直しておくことをおすすめします。
関連記事:キックバック・リベートの不正を見抜く方法|発覚パターンと企業の対処フロー
よくある質問(FAQ)
取引先の担当者の結婚祝いを送ることは問題になりますか?
相手が公務員やみなし公務員でなければ、一般的な金額のお祝いが問題になることは多くありません。
ただし、取引での便宜を期待して高額なお祝いを送る場合は、問題になり得ます。相手が公務員やみなし公務員の場合は、個人的なお祝いであっても社内で相談してから判断してください。
取引先からの高額な贈答品を断れなかった場合はどう対応しますか?
受け取ってしまった場合は、速やかに上長やコンプライアンスの担当に届け出てください。返却するか、別の対応をとるかは、会社として判断します。
断れなかった経緯も記録しておいてください。届け出ずにそのままにすることが、いちばん問題になります。
海外出張中に、現地の商慣習として接待を受けることは問題ありませんか?
相手が外国の政府機関や国有企業の職員であれば、現地の慣習であっても、日本の法律や相手国の法律が適用されることがあります。
海外での接待は、事前に法務やコンプライアンスの部門に確認してから対応してください。
