【事例で学ぶ】社内横領が発覚した企業のリアルな対応プロセス
横領は「大企業だけの問題」「うちの会社では起きない」と思われがちです。しかし実際には、規模を問わず、むしろ管理体制が手薄な中小企業・オーナー企業で発生しやすい不正です。
本記事では、実際に起こりうる横領のパターンをもとに、3つの架空の事例を用いて、どのように発覚し、初動でどんなミスが起き、その後どう対応したかを整理します。
事例から自社のリスクと対応の方向性を確認してください。
※ 本記事の事例は、一般的に知られている手口をもとに作成した架空のものです。特定の企業・個人の事案ではなく、当社が取り扱った案件でもありません。
個別事案における犯罪の成否や、処分・請求の可否は、証拠と経緯によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
【事例1】経理担当者による売上金の着服(中小企業・7年間で約2,100万円)

事案の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | 小売業(従業員30名、年商3億円) |
| 関与者 | 経理担当者。長年にわたり経理業務を一人で担当 |
| 手口 | 現金売上の一部を入金せず着服。帳簿の数字を調整して隠す。7年間継続 |
| 被害総額 | 約2,100万円(7年間の累積) |
| 発覚のきっかけ | 担当者が長期休業した際、後任者が帳簿と実際の入金を照合して不一致を発見 |
初動で起きたミス
経営者が本人に直接問い詰めてしまいました。復帰した担当者に「帳簿がおかしいが」と伝えたところ、翌日から無断欠勤。その間に会社システムへアクセスし、関連ファイルが削除された形跡が残りました。
このケースでは、本人に伝える前にシステムのアクセス権を止めていなかったことも重なっています。接触するかどうかを判断する前に、まず記録を保全し、権限を制限しておく必要がありました。
その後の対応と結果
- 弁護士に相談し、会計システムのログ・銀行の振込記録・帳簿の原本を保全
- フォレンジック調査で削除されたファイルの一部を復元し、書き換えの跡を確認
- 刑事告訴を提出。捜査の過程で担当者のPC・通帳が押収された
- 民事訴訟と並行して不動産への仮差押えを申し立て、資産の散逸を防いだ
- 刑事では執行猶予付きの判決、民事では損害賠償の判決を得て、一部を回収
この事例から学ぶこと
一人に任せきりの経理体制が、最大のリスクになります。単独での経理担当と現金の取り扱いは、不正の機会を作る要因です。複数人によるチェック、上長の承認、現金と帳簿の定期的な照合が基本的な予防策になります。
【事例2】営業マネージャーの架空経費請求(3年間で約480万円)

事案の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | IT系企業の子会社(従業員80名) |
| 関与者 | 営業マネージャー。部門の経費の承認権を持つ立場 |
| 手口 | 実際には行っていない接待や、架空の業務委託費を申請。知人の会社を外注先として使い、発注から支払いまでのサイクルで資金を流出させ、一部を受け取る |
| 被害総額 | 約480万円(3年間の累積) |
| 発覚のきっかけ | 税務調査の際に外注先の実在確認が行われ、業務実態のない会社への支払いと指摘されたことで内部調査に発展 |
初動で起きたミス
税務の問題として処理しようとしてしまいました。税理士に相談した際に修正申告で対処する方針となり、内部不正の調査が後回しになりました。
税務上の対応と、社内の処分や被害の回収は別の枠組みです。片方だけを進めていると、その間に記録が散逸し、民事の時効も進みます。
その後の対応と結果
- 外注先の商業登記を確認し、代表者がマネージャーの知人であることを把握
- 業務用PCのメールを確認し、資金の分配に関するやり取りを発見
- 弁護士を通じて外注先の担当者に事情を確認し、実体のない取引であることを把握
- 本人への聴取で事実を認め、分割での返済に合意
- 懲戒解雇。刑事手続きに進むかは、証拠の状況を踏まえて弁護士と検討した
なお、返済を約束させる代わりに刑事手続きを取らない、という持ちかけ方には注意が必要です。告訴をちらつかせて支払いを迫ったと受け取られると、会社側の対応が問題になることがあります。刑事と民事は切り離して、それぞれ弁護士と判断してください。
この事例から学ぶこと
税務の問題と内部不正は、並行して対処する必要があります。外部からの指摘で不正が発覚した場合、会計上の対応と同時に、社内の処分と被害回収の方針を弁護士と設計してください。修正申告だけでは被害は戻らず、その間も時効は進みます。
【事例3】倉庫管理者による在庫の横流し(5年間で約800万円相当)

事案の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業種・規模 | 製造業(従業員200名・工場を保有) |
| 関与者 | 倉庫管理の責任者。在庫の出入庫管理と棚卸しを担当 |
| 手口 | 高価な原材料を帳簿上は廃棄として処理した後、外部の業者に横流し。帳簿上の廃棄量を実際より多く記録して実態を隠す。5年間継続 |
| 被害総額 | 原材料の時価で約800万円相当 |
| 発覚のきっかけ | 審査の準備で棚卸しを行ったところ、廃棄記録と実際の廃棄量(産廃業者のマニフェスト)が大きく食い違っていることが判明 |
初動で起きたミス
本人に確認してから、と待ってしまいました。食い違いを見つけた担当者が本人に伝えたところ、その日のうちに廃棄記録の一部が修正され、変更前の記録が一部失われました。
その後の対応と結果
- 在庫管理システムの変更ログを取得し、修正前後のデータを確認
- 産廃業者のマニフェストと帳簿の廃棄記録を照合し、食い違いを数値化
- 弁護士を通じて横流し先の業者に事情を確認し、購入の事実を把握
- 本人への聴取では一部を認めたが全容は否認。記録に基づいて事実を認定
- 懲戒解雇と刑事告訴。横流し先の業者についても、盗品等に関する罪が問題になり得る事案だった
この事例から学ぶこと
廃棄の記録は、横流しの隠れ場所になります。廃棄や除却の処理は現物が消えるため、隠す手段として使われやすい部分です。産廃業者のマニフェストや廃棄証明書と在庫記録を定期的に照合することが、このパターンへの有効な対策になります。
各事例に共通する「発覚のきっかけ」と「初動の失敗」

3つの事例を振り返ると、発覚のきっかけと初動の失敗に共通したパターンが見えてきます。
発覚のきっかけ
| 発覚のきっかけ | 事例での現れ方 |
|---|---|
| 担当者の不在・交代 | 事例1:長期休業で後任者が照合。退職後の引き継ぎで発覚するケースも多い |
| 外部の目が入った | 事例2:税務調査。事例3:外部の審査。第三者の確認が発見につながった |
| 記録の照合 | 事例1:帳簿と入金の照合。事例3:廃棄記録とマニフェストの照合。複数の記録の突き合わせが実態を浮かび上がらせた |
初動の失敗
| 失敗のパターン | なぜ問題か |
|---|---|
| まず本人に確認した | 記録の削除や口裏合わせが起きる。保全とアクセス権の制限が先決 |
| 別の問題として処理しようとした | 社内の処分と被害回収が後回しになり、その間に民事の時効が進む |
| 様子を見た | 横領は継続する。被害が積み上がり、記録も上書きされていく |
「うちでも同じことが起きているかもしれない」と感じた段階でも、何を先に保全すべきかの整理からご相談ください。
対応が前進した4つの原則
3つの事例で、対応が前に進んだ共通点を整理すると、次の4つになります。
原則1:証拠の保全を最優先にする
どの事例でも、対応が前進したのは記録を確保できた段階からです。
帳簿、ログ、メール、外部の記録(銀行の振込記録・マニフェスト)を早い段階で保全することが、その後のすべての対応の土台になりました。本人への接触より保全が先、という順序を徹底してください。
原則2:税務・人事・民事・刑事を並行して設計する
横領への対応は、税務の処理、懲戒処分、損害賠償、刑事手続きという複数の枠組みが同時に走ります。
どれか一つだけで進めようとすると、他の対応が手遅れになります。
早い段階で弁護士と連携し、どの順序で何を進めるかを決めておいてください。
原則3:外部の専門家を早めに関与させる
社内だけで調査しようとすると、独立性、記録の扱い、専門知識のいずれかが足りなくなります。
フォレンジック会社、弁護士、公認会計士を適切なタイミングで関与させることで、調査の内容と、その後の手続きへのつながりが変わります。
原則4:被害額の確定と回収の手段を早めに設計する
関与者を特定することと、被害を回収することは別の問題です。
事例1では不動産への仮差押え、事例2では分割返済の合意によって、一定の回収につながりました。一方、事例3のように、処分と刑事手続きには進んでも、現物が戻らず回収が難しい事案もあります。相手方の資産状況の把握と保全の申立ては、記録の確保と並行して進める必要があります。
まとめ
3つの事例に共通しているのは、気づいた時点では被害がすでに積み上がっていたこと、初動を誤って対応が複雑になったこと、専門家が入ってから前進したことです。
- 横領は、長く同じ業務を担当し、権限と機会を併せ持つ立場で起きやすい
- 発覚のきっかけは、担当者の不在、外部の目、複数の記録の照合という3つが多い
- 最大の初動ミスは、まず本人に確認すること。記録の保全とアクセス権の制限が先
- 4つの原則は、保全の優先、並行した設計、外部の早期関与、回収手段の早期設計
- 刑事手続きに進んでも、被害が戻るとは限らない。回収は民事で別に設計する
- 「うちは大丈夫」という思い込みが最大のリスク。定期的な体制の見直しが予防になる
「自社でも似た状況がある気がする」「これはどうなのかと思っている取引がある」という段階でも、状況整理からご相談ください。
関連記事:横領調査とは?企業で発生する不正の実態と適切な調査方法を解説
よくある質問(FAQ)
横領をした社員が自主的に認めて謝罪した場合、刑事告訴しないほうがよいですか?
一概にはいえません。刑事手続きと被害の回収は別の枠組みです。告訴をしても、受理・起訴・被害の回復が保証されるわけではありません。押収は証拠を集めるための手続きであり、押収された財産がそのまま会社に戻るものでもありません。
回収を優先して民事での返済合意にとどめる選択もあります。どちらが適しているかは、被害額、相手方の資産状況、証拠の状況によって変わるため、弁護士と早い段階で方針を検討してください。
横領をした社員を解雇した後に、さらに追加の横領が判明した場合は?
時効の範囲内であれば、追加の損害賠償請求や刑事手続きを検討できます。
ただし、退職や解雇の際に「本件に関し、他に債権債務がないことを確認する」といった条項のある合意書を交わしていた場合、その範囲で請求が制限されることがあります。後から判明した事実に条項の効力が及ぶかは争点になり得るため、合意書の内容を弁護士と確認してください。
共犯者がいる可能性がある場合、どう調査を進めればよいですか?
調査の情報管理が特に重要になります。関与している可能性のある人に情報が伝わると、記録の削除や口裏合わせが起きます。
調査を知る人員を最小限に絞り、聴取の順序を設計してください。関与が疑われる人からの聴取は後にまわします。社内だけでは独立性を保ちにくいため、外部の専門家を早めに関与させることも検討してください。
