特別背任罪とは?役員・取締役の不正行為に会社はどう対処するか
「取締役が会社の利益を無視して自己や関係者の利益を図っているようだ。特別背任罪に当たるか確認したい」
「役員による不正が疑われるが、社内で調査できる体制がなく、どこから手をつければいいかわからない」
「株主として役員の不正に対して何ができるか知りたい」
取締役・監査役・執行役など会社の役員は、会社から重大な権限と信頼を委ねられた立場にあります。
その立場を利用して会社に損害を与える行為について、会社法に特別背任罪の規定が置かれています。刑法の背任罪より重い法定刑が定められています。
役員の不正行為は、社内での調査に構造的な限界があり、外部専門家の関与が必要になるケースが多い類型です。
本記事では、特別背任罪の定義・構成要件・実例・株主代表訴訟・証拠確保の方法まで実務的に整理します。
個別事案における犯罪の成否や責任の範囲は、証拠と行為の内容によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
特別背任罪とは?背任罪との違い(会社法960条)
特別背任罪は会社法960条に規定される犯罪で、取締役などの会社役員が背任行為を行った場合に適用される加重規定です。
刑法の背任罪(247条)と比べると、対象者が会社役員などに限定される一方、法定刑が重くなっています。
| 比較項目 | 背任罪(刑法247条) | 特別背任罪(会社法960条) |
|---|---|---|
| 適用対象 | 他人の事務を処理する者一般(役員に限定されない) | 取締役・会計参与・監査役・執行役・支配人などに限定 |
| 法定刑 | 5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方 |
| 未遂の処罰 | なし | あり |
| 公訴時効 | 原則5年 | 原則7年 |
| 株主代表訴訟 | 直接の関連規定なし | 会社法847条の株主代表訴訟の対象になり得る |
公訴時効は法定刑の上限によって決まります。特別背任罪は上限が10年の拘禁刑とされているため、刑事訴訟法250条の区分では原則7年です。背任罪は上限が5年の拘禁刑とされているため、原則5年です。10年や5年という数字は法定刑の上限であって、時効の年数ではありません。
いつ行為が終了したか、複数の行為をどう評価するかによって判断は変わります。「発覚から何年」ではない点にも注意してください。
特別背任罪の法定刑が重いのは、役員が会社・株主から特別の信頼と権限を与えられているにもかかわらず、それを裏切る行為の悪質性を重く見ているためと説明されています。
特別背任罪の構成要件と主体(取締役・監査役・執行役)

特別背任罪が成立するには、以下の構成要件をすべて満たす必要があるとされています。このうち最も立証が難しいのが、図利加害目的という主観的な要件です。
| 構成要件 | 内容 | 立証上のポイント |
|---|---|---|
| ① 主体 | 取締役・会計参与・監査役・執行役・支配人など、会社法960条が列挙する者 | 登記・委任状・議事録で資格を確認する |
| ② 図利加害目的 | 自己または第三者の利益を図る目的、あるいは会社に損害を与える目的があること | 最も立証が困難。利益の流れ・意思決定の経緯が手がかりになる |
| ③ 任務違背行為 | 委ねられた任務・職責の趣旨に反する行為。経営判断の失敗との区別が争点になる | 善管注意義務・忠実義務に反しているかが基準になる |
| ④ 財産上の損害 | 会社に財産上の損害が生じたこと | 損害額の算定と、行為との因果関係の立証が必要 |
経営判断との関係にも注意が必要です。取締役が行った判断が結果として会社に損害を与えた場合でも、合理的な情報収集と検討のもとでなされたものであれば、任務違背にはあたらないと判断されることがあります。特別背任罪の成立には意図的な任務違背が求められるため、経営判断の失敗との区別が最大の争点になります。
会社法上の役員の義務(善管注意義務・忠実義務)
特別背任罪の任務違背は、会社法上の役員の義務に反することを意味します。
- 善管注意義務(会社法330条・民法644条):委任契約上の善良な管理者としての注意義務
- 忠実義務(会社法355条):法令・定款・株主総会決議を遵守し、会社のために忠実に職務を執行する義務
- 競業避止義務(会社法356条1項1号):会社の事業の部類に属する取引を行う場合、承認を要する
- 利益相反取引の規制(会社法356条1項2号・3号):自己または第三者のための取引には承認を要する
特別背任が疑われる実例パターン

特別背任罪が問題になるのは、役員が権限を持っている立場を使って、会社の負担で自己や第三者に利益を移すケースです。
以下の典型パターンを把握しておくことで、自社内での異常の発見につながります。
| 行為パターン | 具体的な状況 | 特別背任との関係 |
|---|---|---|
| 無担保・廉価融資 | 取締役が担保なしで関係会社・個人に融資を承認し、回収不能になった | 図利加害目的・任務違背・財産損害の3要件が争点になりやすい |
| 利益相反取引の承認省略 | 取締役が自身や関係会社との取引を、必要な承認を経ずに実行した | 会社法356条の問題と並行して、特別背任が検討されることがある |
| 過大な役員報酬・賞与 | 必要な決議を経ずに、自己や関係役員への報酬・賞与を支出した | 損害額と図利目的の立証次第で、特別背任が検討される |
| 競業他社への情報提供 | 競合他社を有利にするために自社の顧客・技術・情報を提供した | 不正競争防止法の営業秘密侵害との関係も問題になり得る |
| ペーパーカンパニーへの資金流出 | 架空の業務委託・仕入名目で、関係者が支配する会社に資金を流した | 横領罪・詐欺罪との関係も検討される |
株主代表訴訟と特別背任罪の告発
役員の特別背任が疑われる場合、会社が自ら動かない、動けないという状況でも、株主や他の役員が対応を進められる手段があります。
株主代表訴訟(会社法847条)
株主代表訴訟とは、取締役が会社に損害を与えた場合に、株主が会社に代わって取締役への損害賠償を請求する訴訟です。6か月以上継続して株式を保有する株主が提起できるとされています。非公開会社では保有期間の要件はありません。
- 提訴の前に、会社に対して訴訟提起を求める書面を送付する必要がある。監査役設置会社では監査役が会社を代表して受け取る
- 会社が60日以内に提訴しない場合、株主が自ら原告となって訴訟を提起できる
- 賠償の相手先は会社。株主個人が賠償を受けるものではなく、会社の損害回復が目的になる
- 敗訴した場合の費用は原則として株主が負担する。勝訴した場合は、支出した費用の一部を会社に請求できるとされている
刑事告訴・告発
特別背任罪は親告罪ではないため、告訴がなくても起訴することができます。また、犯罪があると思料する者は誰でも告発をすることができるとされており、株主や他の取締役が告発する道もあります。被害を受けた会社は告訴権者として告訴することができます。
- 告訴状・告発状を管轄の検察庁または警察署に提出する
- 証拠が十分でない段階では、受理されないこともある
- 告訴・告発をしても、受理・起訴・被害回復が保証されるわけではない
- 刑事と民事のどちらを先に進めるか、並行させるかは、証拠の強さと相手方の資力を踏まえて判断する
取締役が不正を行っており、他の役員も関与している、監査役が機能していないという場合、会社として対処できないことがあります。この場合は、株主代表訴訟や告発という、会社を経由しない手段が選択肢になります。弁護士と早い段階で整理してください。
役員の不正行為の証拠をどう確保するか
役員の不正行為の証拠収集は、通常の社員の不正と異なり、構造的な困難が伴います。
役員は多くの場合、証拠を削除する権限と動機の両方を持っており、社内での調査には限界があります。
書類・取引記録の保全
特別背任は、取引・承認・支出という形で帳簿に痕跡を残します。以下の記録を早期に確保することが証拠の基盤になります。
- 問題の取引に関する契約書・見積書・請求書・振込記録の原本を保全する
- 取締役会・経営会議の議事録・承認記録を確認し、必要な承認を経ているかを検証する
- 会計帳簿・決算書類と実際の取引を照合し、不自然な支出・計上を抽出する
- 関係会社・取引先との契約内容が、市場の条件と比べて合理的かを検証する
デジタル証拠・フォレンジック調査
役員のメールや意思決定の記録がデジタルで残っている場合、フォレンジック調査が証拠確保の手段になります。
- 業務用メール・社内チャットの送受信履歴を保全する(削除される前の確保が最優先)
- フォレンジック会社に依頼して、削除されたメール・ファイルの復元を試みる
- ハッシュ値の記録により、証拠の完全性を担保する
外部調査機関の活用
役員が調査の対象になる場合、社内調査では独立性を保てません。
第三者調査委員会・外部弁護士・調査会社による独立した調査が、証拠の信頼性と調査の実効性を高めます。
- 外部弁護士による独立した調査・報告書の作成
- 調査会社による、取引先や関係会社の実態確認と、業務上の接触状況の記録
- フォレンジック会計調査による財務記録の専門的な分析
役員不正の証拠収集で軸になるのは、誰が得をしているかという利益の流れを追うことです。不当な取引の相手方と、その関係者への資金や利益の流れを、帳簿と取引記録から追跡することが、図利目的の立証につながります。
役員の行為が問題になるかどうか、どこから動けばよいかが判断できない段階でも、状況整理からご相談ください。
まとめ

特別背任罪は、役員が会社から委ねられた権限と信頼を悪用して会社に損害を与える行為について、重い法定刑を定めた規定です。
社内での通常の対応が機能しないケースが多く、株主代表訴訟・刑事告発・外部専門家による調査という選択肢を早めに検討することが重要です。
- 特別背任罪(会社法960条)は取締役・監査役・執行役などに適用され、法定刑の上限は10年の拘禁刑とされている
- 公訴時効は法定刑によって決まる。特別背任罪は原則7年、背任罪は原則5年。10年や5年は法定刑の上限であって時効ではない
- 構成要件は「主体・図利加害目的・任務違背・財産上の損害」の4つ。図利加害目的の立証が最も難しい
- 実例パターンは無担保融資・利益相反取引・過大報酬・競業情報の提供・ペーパーカンパニーへの資金流出
- 株主代表訴訟と告発により、会社が動かない場合でも株主や外部から対応できる余地がある
- 役員不正の調査は社内完結に限界がある。外部弁護士・フォレンジック・調査会社の早期関与を検討する
「役員の行為が特別背任に当たるか」「どこから動けばよいか」という段階でも、状況整理からご相談ください。
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よくある質問(FAQ)
特別背任罪と横領罪は同時に成立することがありますか?
1つの行為について、横領と背任のどちらで構成するかは、与えられた権限の範囲内での濫用か、権限を逸脱した処分かによって整理されるのが一般的です。両方が同時に成立するという整理はとられません。
ただし、資金を流出させた行為と、その資金を着服した行為のように、別々の行為が複数ある場合は、それぞれについて検討されることがあります。どう構成するかは証拠の状況によるため、弁護士に確認してください。
取締役が「会社のためにやった」と主張した場合、特別背任罪は成立しないのですか?
本人の主張だけで結論が決まるわけではありません。会社に財産上の損害が生じており、客観的に見て任務に反する行為であれば、動機の説明にかかわらず成立が検討されます。
一方で、合理的な情報収集と検討を経た経営判断の範囲内であったと認められる場合には、任務違背にあたらないと判断されることがあります。どちらに当たるかは、意思決定の経緯を示す記録によって左右されます。
退任した元取締役の特別背任罪を今から追及できますか?
在任中の行為について、時効が完成していなければ検討の余地があります。特別背任罪の公訴時効は原則7年です。民事の損害賠償請求については、不法行為として構成する場合は損害及び加害者を知った時から3年、行為の時から20年とされています。
刑事の公訴時効には、民事のような更新の手続きはありません。期間が迫っている場合ほど、早めに弁護士へ相談してください。
他の取締役・監査役も関与しているかもしれない場合、どう動けばよいですか?
複数の役員が関与している可能性がある場合、社内での対応は情報漏洩と証拠隠滅のリスクが高くなります。取締役会を経由しない形で進める必要があります。
株主や、当事者と利害関係のない弁護士と連携し、外部の独立した調査を実施することが選択肢になります。誰に、どの順序で相談するかを含めて、早い段階で設計してください。
