横領の時効は何年?民事・刑事それぞれの期間と企業が注意すべきポイント
「数年前に発覚した横領について、今から刑事告訴できるか知りたい」
「退職した社員の横領が後になってわかったが、損害賠償請求はまだできるか」
「横領の時効まであとわずかだと思うが、何をすれば時効の進行を止められるか」
横領が発覚したとき、あるいは後から判明したとき、最初に気になるのが「まだ法的に追及できるか」という点です。
横領への法的対応には刑事と民事の2つの軸があり、それぞれで時効の期間・起算点・止め方が異なります。
「時効が来てしまった」と諦める前に、期間を正確に把握し、まだ間に合う可能性があるかを確認することが重要です。
本記事では、刑事・民事それぞれの時効期間・起算点・時効が迫る場合の対応・完成猶予と更新の方法まで整理します。
個別事案における時効の起算点や残りの期間は、行為の経過と発覚の経緯によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。
横領罪・業務上横領罪の刑事の時効
刑事の時効(公訴時効)とは、犯罪が行われてから一定期間が経過すると起訴ができなくなる制度です。
公訴時効が完成すると、証拠がどれだけ揃っていても、起訴に至ることはありません。
公訴時効の年数は、その罪の法定刑の上限によって決まります。法定刑そのものの年数とは別のものです。
| 罪名 | 法定刑 | 公訴時効 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 横領罪(刑法252条) | 5年以下の拘禁刑 | 5年 | 刑事訴訟法250条2項5号(長期10年未満) |
| 業務上横領罪(刑法253条) | 10年以下の拘禁刑 | 7年 | 刑事訴訟法250条2項4号(長期15年未満) |
| 遺失物等横領罪(刑法254条) | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 | 3年 | 刑事訴訟法250条2項6号(長期5年未満) |
企業での横領の多くは、業務上横領罪の問題として検討されます。業務上横領罪の法定刑の上限は10年の拘禁刑とされていますが、公訴時効は10年ではなく7年です。10年という数字は法定刑の上限であって、時効の年数ではありません。
公訴時効の起算点は、犯罪行為が終わった時とされています。継続的な横領、たとえば毎月少額を着服し続けた場合は、最後の行為があった時点から時効が進みます。
ただし、複数回の行為を1つの犯罪として評価するか、別々に評価するかによって起算点は変わります。「発覚から何年」ではない点にも注意してください。
横領の民事上の時効(不法行為・不当利得)

民事の時効(消滅時効)は、損害賠償請求権や不当利得返還請求権が一定期間行使されないと消滅する制度です。
横領については、不法行為に基づく損害賠償と、不当利得の返還請求という2つのルートがあり、それぞれ期間が異なります。
| 請求の根拠 | 時効期間① | 時効期間② | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 不法行為による損害賠償(民法709条) | 損害および加害者を知った時から3年 | 不法行為の時から20年 | 民法724条 |
| 不当利得の返還請求(民法703条) | 権利を行使できることを知った時から5年 | 権利を行使できる時から10年 | 民法166条1項 |
不法行為は、知った時から3年と、行為の時から20年のいずれか早い方で消滅します。不当利得は、5年と10年のいずれか早い方です。
なお、民法724条2号の20年は、2020年4月に施行された改正民法により、消滅時効として整理されています。改正前は除斥期間と解されており、完成猶予や更新の対象にならないと説明されていました。古い解説を参照する場合は注意してください。
特に注意が必要なのが、不法行為の「知った時から3年」です。横領が発覚した日から3年以内に手続きを開始しないと、刑事の時効が残っていても、損害賠償請求権が消滅するおそれがあります。発覚したら速やかに弁護士に相談してください。
時効の起算点と「知った時」の解釈
時効の計算で最も争点になるのが、起算点、つまり時効のカウントを始める日の解釈です。
とくに「損害および加害者を知った時」という表現が実務上問題になります。
「知った時」とされやすいケース
- 内部告発・同僚からの情報提供で、横領の事実が会社に伝わった日
- 帳簿の精査・監査で横領の事実が確認された日
- 捜査の結果、会社が横領の事実と行為者を認識した日
- 退職者の横領が、後任者の確認で判明した日
「知った時」の解釈で注意すべき点
「知った」とは、単に疑いがあるという段階ではなく、損害の発生と行為者を具体的に認識したことを指すと解されています。
- 「うわさは聞いたが確認していなかった」という場合でも、認識できる状態にあったとして起算点が早く判断されることがある
- 複数の関与者がいる場合は、それぞれについて「知った時」が異なることがある
- 法人の場合、誰の認識をもって「知った」とするかが争点になることがある
知らなかった期間が長いほど、後から追及する際に「知り得たのではないか」という争点が生まれます。疑いが生じた段階で速やかに調査を始め、発覚した日時と経緯を記録しておくことが、起算点を説明するうえで重要になります。
時効が迫っている場合にすべきこと

時効まで残りわずかという状況でも、手続きを踏むことで完成を止められる場合があります。
以下の対応を弁護士と速やかに進めてください。
| 対応手段 | 内容 | 時効への効果 |
|---|---|---|
| 訴訟の提起 | 裁判所に損害賠償請求訴訟を提起する | 手続きが終わるまで完成猶予。確定判決を得れば更新される |
| 支払督促の申立て | 裁判所を通じた督促の手続きを申し立てる | 手続きが終わるまで完成猶予 |
| 仮差押えの申立て | 相手方の財産を仮に差し押さえる保全処分を申し立てる | その事由が終了した時から6か月間の完成猶予 |
| 内容証明郵便による催告 | 弁護士名義で損害賠償の請求を内容証明郵便で送付する | 催告の時から6か月間の完成猶予(民法150条) |
最も速く実行できるのは、内容証明郵便による催告です。送付から6か月間は時効の完成が猶予されます。
ただし、催告は時間を確保するための手段にすぎません。猶予されている6か月の間に、訴訟や支払督促、仮差押えといった手続きに移る必要があります。催告を繰り返しても、猶予が延びることはありません。
なお、刑事の公訴時効は、民事のように当事者の手続きで止められるものではありません。刑事と民事は別の枠組みとして、それぞれ残り期間を確認してください。
時効の完成猶予・更新の方法
民事の時効は、完成猶予と更新という2つの枠組みで対応します。完成猶予は一時的に止まること、更新は期間がリセットされることです。
時効の完成猶予
完成猶予とは、一定の事由が生じている間は時効が完成しない状態にすることです。猶予の期間が終わると、時効の進行が再開します。
- 裁判上の請求:手続きが終わるまでは時効が完成しない
- 仮差押え・仮処分:その事由が終了した時から6か月間は完成しない
- 催告:催告の時から6か月間は完成しない。催告を繰り返しても猶予は延びない
時効の更新
更新とは、それまで進行していた時効期間がリセットされ、そこから新たに進行し始めることです。
- 確定判決:判決で確定した権利については、時効期間が10年になるとされている(民法169条)
- 相手方による承認:債務の存在を認めた場合。一部の弁済、書面での認諾などが該当し得る(民法152条)
- 強制執行:手続きが終了した時から、新たに時効が進行するとされている
「始末書に横領の事実を記載していた」「一部の返金を受けていた」という場合、承認にあたるとして時効が更新される可能性があります。始末書、返金の記録、合意書は、時効との関係でも意味を持ちます。
残り期間の計算や、どの手続きを取るかの判断は弁護士の領域です。一方で、いつ何が起きたかを示す社内の記録が、その判断の前提になります。
何が残っていて、何を先に確保すべきかが整理できていない段階でも、ご相談ください。
まとめ

横領の時効は、刑事と民事で期間・起算点・対応方法が異なります。
「時効が過ぎたかもしれない」と諦める前に、それぞれの期間と現在の状況を正確に把握することが重要です。
- 業務上横領罪の公訴時効は7年。10年は法定刑の上限であって時効の年数ではない
- 単純横領罪の公訴時効は5年、遺失物等横領罪は3年
- 刑事の起算点は犯罪行為が終わった時。発覚した時ではない
- 民事の損害賠償請求は「知った時から3年」または「行為の時から20年」の早い方
- 不当利得返還請求は「権利を行使できることを知った時から5年」または「行使できる時から10年」の早い方
- 時効が迫る場合は、催告で6か月の猶予を得たうえで、訴訟や仮差押えに移る
- 相手方による承認(一部の弁済・始末書への事実の記載)は、更新事由になり得る
「まだ追及できるか」「時効まで何日あるか」という段階でも、状況整理からご相談ください。時間が経つほど選択肢は狭まります。
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よくある質問(FAQ)
横領した金額が少額の場合、時効期間は短くなりますか?
金額は公訴時効の長さに影響しません。業務上横領罪であれば、金額にかかわらず公訴時効は7年です。民事の時効期間も金額では変わりません。
ただし、金額の大きさは、刑事手続きに進むかどうかや処分の内容に影響することがあります。
加害者が「時効だから払わない」と言っています。それでも請求できますか?
時効は、相手方が援用して初めて効力を生じるとされています。援用されるまでは、期間が経過していても請求すること自体はできます。
また、時効の期間が経過した後に相手方が債務を認めたり一部を弁済したりした場合、その後に時効を主張することは認められないと解されています。実際に請求できるかは、経過と当事者のやり取りによって変わるため、弁護士に状況を伝えて判断を仰いでください。
横領した社員が死亡した場合、相続人に請求できますか?
損害賠償請求権や不当利得返還請求権は相続の対象になるとされています。相続人が相続を承認した場合は、相続人に対して請求することが考えられます。
相続人が全員放棄した場合は、相続人への請求はできません。この場合は、家庭裁判所に相続財産の清算人の選任を申し立てたうえで手続きを進めることになります。進め方は弁護士に確認してください。
