勤怠改ざん・タイムカード不正を発見する方法と企業の対処法

社内不正・社内不倫調査

「タイムカードの打刻と実際の出退勤が合わない」「直行直帰の申告と業務内容が釣り合わない」「勤怠データに不自然な修正履歴がある」。

従業員による勤怠不正が疑われても、疑いだけで本人を追及したり懲戒処分を決めたりするのは危険です。

先に行うべきなのは、記録が消えない状態をつくり、事実と推測を分けることです。

勤怠改ざんは、虚偽の労働時間に基づいて賃金を支払わせる行為です。1件あたりの金額が小さくても、期間と人数を掛け合わせると会社の損害として積み上がります。

ただし、記録に不自然な点があるからといって、直ちに不正と評価できるわけではありません。

入力の誤り、システムの仕様、承認手続の運用など、別の説明が成り立つ場合があります。誰がどの記録を管理し、どの操作をもって虚偽と評価できるかを、証拠で確認する必要があります。

本記事では、経営者・管理部門が判断を急がずに動けるよう、類型、発見の着眼点、証拠の保全、対応フロー、懲戒処分の枠組み、調査の法的な線引きを順に整理します。

個別事案の犯罪成立や懲戒の有効性は、証拠と就業規則によって異なるため、最終判断は弁護士に確認してください。

勤怠改ざん・タイムカード不正の類型

勤怠不正は、どの類型に当たるかによって証拠の所在と対応方法が変わります。

まず自社の状況がどれに近いかを確認することが、調査の方向を決める出発点になります。

よくある発生パターン

類型具体的な手口断定前の注意
打刻の虚偽申告実際の出退勤と異なる時刻を打刻する。同僚による代理打刻を含む打刻端末の時刻設定、修正申請の運用も確認
残業時間の水増し実態のない残業を申請する持ち帰り業務や申請漏れの是正との区別が必要
直行直帰の虚偽申告申告した訪問先へ実際には行っていない当日の予定変更、訪問先都合による中止の記録
勤怠データの改ざん権限を持つ担当者がシステム上のデータを直接修正するシステム仕様上の自動補正、代理入力との区別

勤怠データの改ざんは、システムへのアクセス権限を持つ人事・総務の担当者や管理職によって行われる場合があります。権限者自身の操作であるため、通常の承認フローでは把握できません。変更履歴の定期的な確認が予防策になります。

直行直帰の虚偽申告は、性質が異なります。入退館ログもPC操作ログも「社内にいなかった」ことを示すにとどまり、申告した訪問先にいたかどうかは社内の記録に残りません。この類型は、社内資料だけでは確認できない場合があります。

不正打刻を見抜くチェックポイント

単一の記録だけでは、入力ミスやシステム障害として説明が付いてしまいます。

複数の記録に同じずれが継続して現れるかどうかが、判断の分かれ目になります。

記録どうしの照合

  • 勤怠システムの打刻時刻と、入退館カードのログを突き合わせる
  • PCのログオン・ログオフ時刻と、勤務の開始・終了時刻を比較する
  • 照明、空調、複合機などの使用ログと在席時刻を照合する
  • 直行直帰の申請日について、業務用端末の位置情報を確認する(導入している場合)

業務内容との整合性

  • 残業申告が多い一方で、成果物や完了報告が伴っていない
  • 訪問報告の件数と、取引先とのやり取りの頻度が一致しない
  • 休日出勤の申請に対し、業務システムへのアクセス記録がない
  • 日報の提出時刻が、申告した勤務時間の外にある

数値の偏り

  • 特定の曜日や時間帯に、打刻の修正が集中している
  • 給与の締め日直前に、残業申告が突出して増える
  • 同種の職務に就く社員と比べ、特定の一名だけ残業時間が著しく多い
  • 管理職が不在の日に、その部署の残業申告が増える傾向がある

これらは不正を示す指標ではなく、確認すべき箇所を絞り込むための着眼点です。偏りが見つかった段階では、正常な取引や他の社員の記録との比較も併せて行ってください。

デジタル証拠の保全方法

勤務実態の立証には、客観的な記録が不可欠です。疑いの段階であっても、上書きや削除で失われる前に保全してください。

証拠の種類取得方法保全上の注意点
入退館カードのログ警備システムの管理会社、または社内のシステム担当から取得保存期間に上限がある場合が多いため、早期に取得する
PC操作ログ社内のシステム担当から取得。クラウド型は管理画面から出力削除の疑いがある場合はフォレンジック会社への相談も検討
位置情報業務用端末に導入した管理ツールの記録を、管理画面から取得私有端末への無断アクセスは不可。対象は会社支給端末に限る
勤怠システムの変更履歴変更ログ・監査ログを出力し、修正前後の値を確認するログを保存しない設定になっている場合がある。設定を先に確認
業務メール・チャット会社アカウントの送受信記録から、当該時間帯の活動を確認個人アカウントやプライベートな通信は対象外

証拠は内容だけでなく、どこから、誰が、いつ取得し、以後どう保管したかも重要です。

担当者が原本を直接開いて更新日時を変えてしまうと、後から説明しにくくなります。原本と作業用のコピーを分け、取得日時、取得者、取得元、保存先を記録に残してください。

会社の対応フロー|事実確認から処分まで

実務で問題になるのは順序です。本人への聴取を先に行うと、打刻の修正、ログの削除、口裏合わせを招くことがあります。

原則として「保全→限定的な確認→調査計画→聴取→法的・人事判断」の順で進めます。

1. 対応メンバーと目的を限定する

経営者、人事、経理、情報システムなどから必要最小限のメンバーを決めます。

知る必要のない社員へは共有しません。噂が広がると名誉・プライバシーの問題が生じ、証拠保全にも支障が出ます。

2. 先に記録を保全する

前項の表に沿って、上書きされる可能性の高いものから順に取得します。

この段階では、対象者が所属する部署の運用ルールや承認フローも併せて確認しておきます。

3. 仮説を立て、反証も探す

不自然な記録だけを集めると、最初の疑いに合う情報ばかりを重視する確証バイアスが生じます。

代理入力の可能性、承認者の関与、システム仕様、単純な申請漏れも確認してください。判明した事実、合理的な推測、未確認事項を分けた一覧を作ると、弁護士への説明が安定します。

4. 本人聴取は準備後に行う

聴取前に、質問項目と提示する証拠の順番を決めます。断定から入らず、担当業務、通常の手順、個別の記録の順に事実確認を行います。

複数名で対応し、威圧や長時間の拘束を避け、質問と回答を記録します。自認が得られても、それだけに依存せず客観資料と突合してください。

5. 損害額を確定する

実際の勤務実態と申告の差から、不正に支払われた賃金額を算出します。

返還請求の根拠となるため、対象期間、日ごとの差、単価の算定方法を残してください。

懲戒処分を検討する際の枠組み

就業規則の定めと周知を先に確認する

懲戒処分は、就業規則に懲戒事由と処分の種類が定められ、従業員に周知されていることが前提になります。

労働契約法15条は、これに加えて、処分が客観的に合理的で社会通念上相当と認められることを求めています。定めや周知を欠く場合、不正の事実が明確でも処分が無効と判断される可能性があります。

「虚偽の申告」「不正な打刻」に相当する条項があるか、処分の種類が列挙されているか、就業規則を従業員が閲覧できる状態にあるかを確認してください。

なお、減給には労働基準法91条の制限があります。1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えず、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1を超えないことが必要です。

不正の程度と処分の目安

処分の重さは、不正の規模、継続期間、悪質性、本人の対応によって変わります。以下は一般的な目安であり、個別事情によって異なります。

不正の内容処分の目安(初回)処分の目安(継続・悪質)金銭の回収
代理打刻(少数回・少額)戒告・減給出勤停止・降格差額賃金の返還
残業時間の水増し(数十時間程度)減給・出勤停止降格・諭旨解雇過払分の返還
残業時間の水増し(長期・高額)出勤停止・降格諭旨解雇・懲戒解雇過払分の返還
勤怠データの改ざん降格・諭旨解雇懲戒解雇過払分の返還

裁判例では、改ざんが長期にわたり、会社の追及に対しても虚偽の説明を重ねた事案で懲戒解雇が有効とされた例があります。一方、単発の代理打刻で反省と弁償の意思がある場合には、懲戒解雇は重すぎると判断されることもあります。

不正の事実と、処分の相当性は別の問題です。両方を弁護士と確認したうえで決定してください。

金銭の回収で注意すべき点

過払分は、不当利得の返還として請求することが考えられます。ただし、回収方法には制約があります。

退職金からの相殺は、当然にはできません。退職金も賃金にあたり、労働基準法24条の全額払いの原則が及ぶためです。労働者の自由な意思に基づく同意があると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合に限り、有効とされる余地があります。

また、就業規則にあらかじめ賠償額を定める条項を置いても、労働基準法16条により無効です。請求できるのは実際に生じた損害の範囲に限られます。

使用者から従業員への損害賠償請求は、裁判上、事業の性格や規模、労働条件、従業員の帰責性などを踏まえて制限されることがあります。故意による不正では制限が緩和される傾向にありますが、損害の全額が当然に認められるわけではありません。

不当利得返還請求権の消滅時効は、民法166条により、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年です。過去分をどこまで遡れるかは構成によって変わるため、早期に弁護士へ相談してください。

刑事責任を検討する場合

勤怠データの改ざんは、私電磁的記録不正作出・同供用罪(刑法161条の2)の検討対象になり得ます。改ざんにより賃金を受領した点を詐欺として構成する余地もあります。

もっとも、同罪は人の事務処理を誤らせる目的を要件としており、社内の勤怠データについて立件された例は多くありません。受理されるかどうかは、悪質性と証拠の強さによって変わります。

刑事告訴を前提に動くのではなく、まず社内の処分と過払分の返還を整理したうえで、可否を弁護士と検討する順序が現実的です。

勤務実態を調べる際の法的な線引き

従業員の勤務実態を確認すること自体は違法ではありません。問われるのは、目的の正当性と手段の相当性です。

裁判例では、会社が社用車に取り付けた機器で位置情報を取得した事案について、勤務時間中の把握は違法とされない一方、深夜・早朝・休日を含む継続的な取得はプライバシーの侵害にあたると判断された例があります。

社内で位置情報の管理ツールを運用する場合、次の条件を満たしているかを確認してください。

  • 就業規則または社内規程に位置情報を取得する旨を明記し、事前に周知している
  • 取得の目的を勤怠管理・業務管理に限定し、目的外に利用していない
  • 取得の対象を業務時間内に限定している
  • 対象を会社支給端末に限っている。私有端末への無断のアプリ導入・アクセスは行わない

外部へ調査を依頼する場合も、目的の正当性が問われる点は同じです。不正を疑う具体的な事実があり、社内で確認できる範囲は確認したという前提が、調査の必要性を支えます。

社内調査の限界と外部活用

社内の記録だけで勤務実態を再現できる事案もあれば、外回りの多い職種のように、会社の管理領域外に重要な事実がある事案もあります。

社外での行動確認が必要な場合、適法な範囲で調査会社を使う選択肢があります。

ツミトル証拠保全パートナーズは、法人向けの行動調査と、写真・時系列・証拠番号を用いた報告書整理を支援します。

違法なGPS取付、私有端末へのアクセス、住居侵入、盗聴は行いません。懲戒処分の決定、法的評価、請求、示談交渉、告訴、訴訟は弁護士・捜査機関・裁判所の領域です。

専門家に渡す資料

資料最低限そろえる内容目的
事案サマリー発覚日、疑いの内容、現在の損失見込み初見で全体像を共有
時系列日付、申告内容、実際の記録、裏付け資料番号申告と記録のずれを示す
証拠一覧原本・コピーの別、取得者、取得日時、保管場所改変や欠落を防ぐ
未確認事項誰が何をいつ確認するか調査の重複・漏れを防ぐ
社内規程就業規則、権限規程、情報機器規程、勤怠の運用ルール人事・調査手続の適法性検討

まとめ|処分を決める前に、記録が残る順序をつくる

勤怠不正が疑われたとき、最初に必要なのは処分の決定ではありません。

上書きされる記録を保全し、事実・推測・未確認事項を分け、申告と実態のずれを再現できる状態にすることです。その後で、本人聴取、人事処分、金銭の回収を各専門家と検討します。

直行直帰の申告など、社内資料だけでは確認できない動きがある場合は、確証がない段階でも状況整理からご相談ください。

調査が必要か、何を記録すべきか、どこまでを社内で進めるかを目的から整理します。

関連記事:社内不正の調査を検討する前に確認すること

FAQ

疑いの段階で本人を問い詰めてもよいですか?

推奨しません。根拠が不十分な段階での追及は、名誉やハラスメントの問題になり得ます。

本人に知られると、打刻の修正や口裏合わせが生じます。早期に牽制したい場合は、個人を特定せず、部署全体へ打刻ルールを再周知する方法があります。

代理打刻を依頼された同僚も処分の対象になりますか?

虚偽の記録に協力したとして、対象になり得ます。ただし、断りにくい状況にあった事情は処分の重さに影響します。依頼した側と依頼された側で、事情を別々に確認してください。

過払いの残業代は、退職金から差し引けますか?

当然にはできません。退職金も賃金にあたり、労働基準法24条の全額払いの原則が及ぶためです。

本人の自由な意思に基づく同意が客観的に認められる場合に限り、有効とされる余地があります。同意書の有無だけで判断せず、弁護士に確認してください。

権限を持つ担当者が改ざんした場合、どう証明しますか?

勤怠システムの変更履歴が中心的な証拠になります。変更者、変更日時、変更前後の値が残る仕様であれば特定できます。

履歴を保存しない設定の場合もあるため、まず設定を確認してください。削除の疑いがあるときはフォレンジック会社への相談も選択肢です。

業務用端末で位置情報を取得するのは違法ですか?

就業規則への明記と事前の周知があり、目的を勤怠・業務管理に限り、業務時間内に限定していれば、直ちに違法とはなりません。

裁判例では、勤務時間外を含む継続的な取得がプライバシー侵害と判断された例があります。私有端末への無断アクセスは認められません。

光武 眞依

光武 眞依

光武商事株式会社は、探偵事務所で7年の現場経験を積み、数百件の企業案件に対応してきた代表が、法人リスクに特化した調査・研修を提供するために設立しました。

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